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『もう一度聞くよ｡これで､良いんだね？』
「…うん」
2人でバルコニーに出て､穏やかに光る月を見上げながら話をしていた｡
俺が少し間を空けてそう言うと､彼は溜息を吐いた｡
『嘘はダメだよ？』
「…」
『後悔､してるんでしょ？』
「…この選択には､後悔してない」
『じゃあ､ヴィリス達のこと？』
「…知ってるの？」
『まぁ､ね』
そうだ｡
俺は､戦場に出ることは後悔してない｡
でも､皆に､ヴィリスに酷い事をしてしまった｡
折角､贈り物をしてくれたのに｡
「…贈り物､汚したくなかった」
『…素直に言えば良かったのに』
それが出来たら､今こんな思いしていない｡
と､頭をふわふわと撫でて貰いながら俯く｡
やっぱり､この人の撫で方が､一番好きだ｡
『…早くに､出発するんだろ？』
「…うん」
『言葉とか､遺さないの？』
「…残しても､いいのかな」
『勿論｡伝えようか？』
「…うん､お願い」
どうしてか､この人は必ず伝えてくれると思った｡
この人は､死んでいるけども｡
俺より､生者らしい｡
「…ねえ､」
『ん？』
「名前､教えて？」
『そう言えば､名乗ってなかったね』
くふくふと楽しそうに笑うその人｡
ヴィリスやクルトと同じくらいだろうに､とても幼く感じた｡
『僕は､ハノ｡ハノ･デューロ』
「ハノ､デューロ…」
『出身はθ国だけど､育ちはΔ国でね｡殉職しちゃったんだ』
ハノは､淡い空色の瞳をどこか遠くへと向ける｡
口元は笑っているのに､泣いているように見えた｡
「…誰かを､置いてきたの？」
『！…分かった？』
「何となく」
『そっか､ギギは凄いなぁ』
そして､ハノはまたふわふわと俺の頭を撫でる｡
それでも､泣きそうな顔だった｡
『…僕には婚約者がいたんだ』
「…」
『僕より強くて､ちょっと抜けてるけど､仲間や家族を大事にする､僕には勿体ない人｡赤の見える黒いキラキラした瞳が､僕は好きなんだ』
黒の中に､赤が見える瞳｡
あぁ､そっか｡
ハノが置いてきた人って､ヴィリスなんだ｡
そう思って､2人が並んで､話している光景を思い浮かべる｡
おにあい､だと思う｡
「…会いたい？」
『そう､だね｡逢いたい』
「…じゃあ､お願いね？」
『え､？』
「言葉､伝えてね？ハノ」
『…うん､承った』
どちらとも言わず､小指を出す｡
チグハグな大きさだけど､しっかりと絡めて､俺たちは"やくそく"をした｡
「…お休みなさい､ハノ」
『うん､おやすみ､ギギ』
そう言って､ハノは夜に消えていった｡
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作者名：東の番長 | 作成日時：2019年6月3日 7時
