使命：1 ページ43
俺が任されたのは､隠密行動をする上で要人の暗殺｡
また成功したら適当､且つ重要な部屋を爆破するという内容だった｡
正直､これだけか､というのが大きかった｡
「…危険な役目だが､請け負ってくれるか？」
「承諾させて頂きます」
遠目にしか見かけなかった､この軍の総帥､最高権力者のギルベルト･ファウスト｡
彼は､アルバートと血縁者らしい｡
成程､確かに顔立ちが少し似ている｡
「私としては､前提として､君を戦場に出すことはしたくなかった」
「…」
「だが､君の意志を無下にするのも気が引ける｡今回の戦争は､君が鍵だ｡期待しているぞ､ギギ｣
「はい」
一度頭を下げて､背を向けてから部屋を退出しようとした｡
「ギギ､」
「…はい」
「本当に､何も､思い残す事は無いんだな？」
「…何も､ありません」
そう言って､俺は扉を静かに閉めた｡
体が軽かった｡
今まで生きてきた中で､1番と言えるほど､体が軽く動きやすい｡
義肢も､もっと軽く感じる｡
「…ギギ」
「…カルブ中将」
悲しい顔をした彼は､手招きをしていた｡
俺がそちらに行くと､彼の顔は涙に濡れていることが分かった｡
「お前は､本当にそれで､いいのか…？」
「…はい､守る為､ですから」
そう言うと､彼は涙を流したまま､俺の頭を優しく撫でてくれた｡
分厚い､男の人の手だ｡
怖くて堪らなかった筈の男の手が､こんなにも安心するものだとは｡
「決行は､明日…」
与えられた自室のベッドに身を投げ出しそう呟いてみる｡
道中､他の将校や兵士に会ったのだが､皆同じ様に頭を撫でたり抱き締めたりしてきた｡
「…」
ふと､両手を天井に向けて､握ったり開いたりする｡
左手は動かす度にカチャカチャと音が鳴って､普通では無い､とそう考える｡
照明の光を受けて､ソレは鈍く光る｡
そうしていると､耳の奥から響き始めるのは､戦場の音｡
俺は明日､また彼処に戻る
そう考えると､何となくやるせなくなった｡
『それで､良いのかい』
「！」
聞き覚えのあるような､無いような声が聞こえ､飛び起きて構える｡
視線の先には､膝から下が見えない､半透明の､あの人｡
「あ､…」
『久しぶり､かな？』
俺と同じ白い髪の､軍服を着た人｡
初めて､頭を撫でてくれた人｡
「…死んで､たんだ」
『そうだね､君に会ってすぐ後ぐらいかな』
困ったように笑いながら彼は近付いてくる｡
その軍服は､ヴィリスが着ていたものと同じだった｡
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作者名：東の番長 | 作成日時：2019年6月3日 7時
