手は振らず：1 ページ37
「皆､今日は大事な話がある」
普段通り？の生活に戻って暫くした頃､朝食の後の少しの時間の間に､ヴィリスが話を切り出した｡
その表情は険しく､真剣だと言うことが手に取るように分かった｡
そして､どんな話なのかも｡
「近々､θ国に宣戦布告する事になった｡つまり､戦争が始まる」
予感は､的中した｡
2度目の戦争ともなれば､互いの手の内も知り得ている｡
どうやって､戦うつもりなのか｡
すると､ロボロが問う｡
「θ国って､前と同じ所？」
「外交官が戻って来ない｡こちらは友好的に歩み寄ろうとしたのだがな」
外交官…あの物腰柔らかな人か｡
軍に行く度に､お菓子やらくれた人｡
生きている事を､願いたい｡
「宣戦布告されると分かっているのか､あっちは余裕に準備をしているそうだ｡そこを」
「いや､返り討ちにされる」
「…ギギ？」
隣で話していたエーミールが困惑した表情で俺を見る｡
俺は立ち上がり､ヴィリスを真っ直ぐに見た｡
「奴らは､自国民の安全も考えずに罠やら何やらを仕掛けまくる｡特攻隊を作るぐらいだからな」
「…」
「余裕に準備をしていると言っても､あちらも馬鹿ではない｡迎撃準備も万全だろう｡なら､別の方法で陽動するしかない」
「…陽動､と言うと？」
ヴィリスの瞳に､赤が宿る｡
その瞳は軍人そのもので､彼女も俺と同じなのだと､何故か安心した｡
「暗殺部隊で軍の要人を殺すか､遊撃部隊を囮にするか」
「今回の戦争は､正直に言えば消費戦｡犠牲は､必ず出る」
「その覚悟を持たないと､絶対に勝てない」
反転した瞳が私を射抜く｡
ギギはあの国にいたからこそ､分かるのだろう｡
どれだけあの国が卑劣で下劣で､どれだけ愚かなのか｡
「我々も､その覚悟は出来ている｡故に､宣戦布告という形になった」
あぁ､ダメだな｡
弟たちの前だと言うのに､少将でいる時の口調になってしまう｡
ギギは､私にとって妹というよりも､同僚かなにかに思えてしまうようだ｡
「…これ､ほんとは言いたくないし､考えたくもなかった」
暫し沈黙が続いた後､ギギがぽつりと呟く｡
「…ヴィリス･サタルキア少将､貴殿に､折り入って頼みがある」
「…」
「俺を､戦争に参加させて欲しい」
「…は」
「城の構造を十分に理解していて､あちらの戦略も分かる｡俺ほどの駒は､」
「ダメや！！！」
ギギの発言を動揺も隠さず私は聞いてしまっていた｡
そんな中､誰かの叫びに近い懇願が響く｡
ゾムだった｡
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作者名：東の番長 | 作成日時：2019年6月3日 7時
