芽生え：1 ページ24
店の中が静寂に包まれる中､ヴィリスが慌てたように入ってきた｡
「ッ…ギギ！」
「…」
ギギは呼び掛けに反応することは無く､ただじっと､目の前の情けない姿を晒す男を見つめていた｡
その瞳に､光は無かった｡
「ッ…女将校ぉ！！てめぇの､教育はどうなッ」
「ギギ！」
右足で､ギギが男を蹴り上げる｡
男は蹴られた顎を抑え悶えていた｡
「やめろギギ､彼は兵士でも何でもない｡一般人なんだ」
「…」
年齢､性別から見ても異常に背の大きいギギの肩に手を置いて､ヴィリスは言い聞かせるように囁く｡
しかし､ギギには届かなかった｡
「…ちからがあるものは､」
「…」
「ちからなきものを､まもるのがやくめ｡けど､こいつも､ここにいるやつらも､だれも､まもろうとはしなかった」
「ギギ…」
幼い声で紡がれる､不相応な言葉に､店内の空気はどんどん重くなっていく｡
実はここは軍御用達の店でもあった｡
絡んできた男たちは軍人であった｡
その場には､他の軍人はいたのだ｡
「どうして？まもるはずのやつらは､まもってくれない？」
ヴィリスから視線を外し､ギギは周囲に視線を向ける｡
視線を受けた客のうちの数人は､顔を逸らした｡
「…せきにんが､こわい？」
「！」
世間が､
そんなもの､自分たちにとって関係なかった
その日を生きるのに必死だったから､戦わねば死んでしまうから
今まで､何人も死んだ､殺した
その人達だって生きたかった
でも､戦場にいる限り､常に死と隣り合わせだ
それを､お前らは知っている筈だろう
「…」
改めて､認識した｡
この子の心は､未だ戦場にあるんだ｡
初めて出来た家族を､大切なものを守りたくて｡
その感情を､失いたくないから｡
「ッ…」
「…おまえは､どうする？」
「ﾋｯ…な､なにが…」
「どうする？」
「ッ…申し訳､ございませんでした…！」
「おれじゃない」
「いギッ？！」
ギギは左手で男の頭を掴みあげ､ヴィリスの方を向かせた後､鬱たちの方にも向かせた｡
「うつに､ゔぃりすに､だ」
「ひぃ…！申し訳､申し訳ありませんでした！申し訳ありませんでした！」
男の頭を掴みあげるギギの姿は､さながら拷問官のようにも見えた｡
なぜなら､そのひとみに感情など1つも無いからだ｡
「…ギギ､もうええよ」
「…」
「特に怪我もしとらんし､周りも端から期待してへんから」
へらり､と笑った鬱｡
後ろの3人も同じように呆れた笑いを浮かべていた｡
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作者名：東の番長 | 作成日時：2019年6月3日 7時
