うちの阿部、取り扱い注意。【緑】２

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ショックを受けた表情をしているけど、ショックなのはこっちだ。てっきり私と同じように愛野さんだって夢をもってメイク業界に入ったんだと思ったのに私利私欲が溢れててさ。
人間欲はあるし、それがあるから頑張れる事もあるだろうから一概に否定はしないけど人に迷惑かけていい事にはならない。


「私は好きでした。愛野さんのメイク……」
「っ、」
「それでどうする？」
「どうする、とは？」


腕を組んで愛野さんを見下ろしている阿部さんは、まだにこりとも笑わない。


「彼女は盗みを働いたんだよ。警察に突き出す？」
「そ、れだけはっ、本当にすみませんでした」
「愛野さん、謝って済む事と済まない事ってあるんですよ」


足を踏み出して、愛野さんの前に屈み言う阿部さん。その表情は私からは見えないけど、背中に寒気が走る。
愛野さんの顔は真っ青だ。


「す、すみませんっ」


ボロボロと涙を流したところでスクッと立ち上がって私を振り返る。


「どうしたい？」


阿部さんと愛野さんを交互に見て視線を足先へと向けた。


「もう二度とこんな事しないでください」


私が選んだのは許すことだった。
無くした物は残念だけど、自分の仕業だってバレた以上愛野さんだってもうなにもしてこないだろうし。さっきからガタガタ震えるくらい反省してくれてるようだし。
もうしないって約束してくれるならって。









「優しすぎるよねAちゃんは」


『絶対にもうやりません！ すみませんでした』と謝って愛野さんが帰って行った後、残った阿部さんに言われて苦笑い。自分でもお人好しだと思う。


「できれば大事にしたくないですもん」
「そっかぁ。だったらもう何も言わないよ」

うーんと伸びをする阿部さん。帰ろうとしてる雰囲気を漂わせてる。


「阿部さん、」
「ん？」

さっきまでとは全然違って穏やかな声色で首を傾げて、自惚れかもしれないけど阿部さんのこれは私への特別なのかって思ってしまった。
阿部さんのおかげで、ずっと不安で気持ち悪かったそれはもうないんだとホッとした。


「ありがとうございました」
「ふふ、どういたしまして。Aちゃんの為なら俺ねなんでもできちゃうんだ。だからもう少し俺の事信用してほしいな」


ベッドに腰掛けている私の前に立ってポンポンと頭に手を乗せて微笑まれて、ほんのちょっと、ちょっとだけキュンとした事は言わないでおこう。

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