うちの阿部、取り扱い注意。【緑】２

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「……いえ、なんでも」


きょとんとした顔で首を傾げる阿部さんを見ていたら、なんだか力が抜けてしまう。
人を疑うのはよくない。
ましてや彼は私を助けてくれた上に職業がアイドル様だ。疑うのは間違ってる。
たまたま近くに住んでたものだから、たまたま会うってだけ。顔見知りだったら見掛けたら声をかけるかもだし。


「阿部さんは牛乳だけ？」

一緒にレジに向かうと、カゴを持ってたわりに牛乳だけなことに違和感。

「あ、うん。いや、他にも買いたいものあったはずなんだけど、」
「けど？」
「ふふ、Aちゃんの顔を見たら嬉しくて気が抜けたのかな。忘れちゃった」
「っ、」


へへって、またそんな大きな人が可愛い顔をして笑うとか。心擽られる。これはきっと私だけじゃないはずだ。
あー、そう言えば阿部さんって”あざとい”って言われてるんだっけね。


「ありがとうございましたー」


コンビニを出る時、怖くて足が立ち止まり掛けたけど、阿部さんが大きくて温かい手を背中に添えて「大丈夫」と押し出してくれた。
結局送ってもらう選択肢しかなかった。
だってコンビニに居る理由をあれよあれよと言葉巧みに聞き出されてしまい、理由を知った以上送らないって選択はないからねって言われてしまったから。


「さっきさーテレビでフレンチトースト作ってたのね」


夜道をとぽとぽと歩く。街灯と時々雲間から覗く月明かりが私達を照らしている。
そんな中、阿部さんは私の出来事に特に関係のない話を始める。


「今日はさ帰ってからずっと勉強してたから、それ見て無性に食べたくなってさ」
「あ、それで牛乳？」
「そう。他の材料はあったの。なのに牛乳だけなくてぇ、面倒くさってなったけど。こうなったら牛乳買ってなかった自分を褒めるね」


カサカサと結構と雑に牛乳の入った袋を振り回す。丁寧に扱いそうに見えてそうじゃない。よく見れば髪もところどころピンと跳ねてる。
いつもしっかり整えられてるけど、案外普段は何処にでもいる普通の男性なのかもしれない。そう思うと跳ねた髪も可愛く思えた。


「おかげでAちゃんに会えて、こうして夜のお散歩ができたもんね。こんなに早く叶うなんて嬉しいなぁ」
「デ、デートじゃないですからね。送って頂いてるだけですから」
「はぁい。じゃあ次はデートだね！」
「…………」


めげない人だなぁ。
このままだと押しに負けちゃいそうで困るのに。

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