美しき人の名は太宰。【文スト】

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まあ其れも今日で終わりだろう。この少年を拾った時点で私の嘘は意味を為さない物に変わってしまった。

それに、やっと染み付いた汚れを洗い落とす事が出来たのだ。これは異能でも何でもなく、ちょっとした取引(・・)を特務課として、消して貰っただけなのだけれど。

どんな取引かは、ご想像にお任せしようか。


「…まあ、私は私として生きるだけだね」


すうすうと穏やかな寝息を立てている少年の頭をそっと撫でてみる。起きる気配は無さそうだ。


「太宰ｨ！どういうつもりだ！」


幻聴だろうか、彼の声がする。


「…決まってるよ、この子を社員にする」


「はァ？手前、何言ってんだ？遂に頭でも打ったのか？」


顔を上げると、数年前迄毎日の様に顔を突き合わせていた男が私を心配そうに見ている。


「(…成程)」


全く…乱歩さんもやってくれるじゃないか。彼の人には勝てそうにないなぁ。


「やあ中也、久しぶり。元気してた？」


声が、震えては居ないだろうか。彼にこの気持ちを悟られては居ないだろうか。


「…まあな、生きてたのか。…良かった…」


彼の…中也の口から洩れた安堵の声に不意に涙腺が緩みそうになった。泣いてしまったら彼に迷惑がかかってしまうから泣かないけれど。


「いやあ、私にも事情があってねぇ…君を置いていくことになって凄く辛かったんだよ？」


出来るだけいつも通りの声を絞り出す。もうやだ…真っ直ぐ声が出ない。

「あのね、中也。私は…」


弁解は続かなかった。鳩尾に鈍い衝撃が走り口から何かが迫り出しそうだった。
それは勿論中也に殴られたからで、貧弱な私にはその一撃すら致命傷なのだ。現に今せり上がっている物の正体は血液である。

…私の体は、持つだろうか。


「…心配、したんだからな…！」


もう正直な所、痛みが酷くて何を言っているのか全く持って分からなかった。兎に角痛い。ただそれだけだった。


「そ、れは…済まない…ことをした…ね…」


言葉が途切れ途切れになりふわふわと意識が飛びそうになる。…というか飛びかけてる。


「おい、太宰？大丈夫か？」


焦った様な中也をちらりと見て目を閉じる。たとえ明日になっても中也の打撃は痣になって残るだろう。だから今は眠ってしまおう。其れで、明日、中也の跡をじっくり楽しもう。自分のこの思考が異常なのは昔からなので突っ込まないで欲しい。


「…っ」


ぐらり、と傾いた自分の体が中也に支えられたのを感覚で感じて視界は暗くなっていく。


…まだ、この夢を味わっていたいのになぁ。


心残りはただただ其れだけだった。

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