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ephemeral01 ページ15

「……え?」



間抜けな声を出して僕はその顔をじっと見つめた。
影の伸びる廊下でたったの二人。
僕は言葉を失って呆然と立ち尽くしていた。



「……夢、か。」


夢から覚めたと思っていたけれど、どうやらまだ夢の中らしい。
一体僕はどれだけ寝れば気が済むのだろう。
早く起きてほしいものだ、と目を伏せた。



「夢?勘違いしてるんじゃない?」

「いや、間違いなくこれは夢。」

「……どうしたの?」



心配そうに僕の表情を覗き込む『彼女』の顔が視界を埋める。
だけど僕はそれに惑わされたりしない。
だって君は、Aは



「もう居ないから。」



こんな悪夢、早く覚めてくれればいいのに。
僕は言葉には出さないけれど、何度もそう思った。
それに、教室やこの廊下には見覚えがある。



「……時空管理委員会。」

「ん?どうしたの?今日は何か変だね。」



Aはご機嫌そうに、微笑んだ。
……その笑顔だ。
僕が失ってしまった笑顔。



「ねぇA。」

「何?」

「……いや、何でもない。」




そうだ、僕はこの瞬間を知っている。
一度通った道だから。



「……元気、だった?」

「え、ちょっとちょっと!本当に大丈夫?」


Aは僕の額に手を当て、もう片方の手を自分の額に当てる。
うーん、とわざとらしく考える素振りを見せるのはいつものことだった。




「熱は無さそうだけど、疲れてるんじゃない?」

「あ、あはは、そう…かも。ごめんね。」



彼女の手の温もりも、何もかもが本物だ。
ここは夢の中なんかじゃない。
それを証明できたのは、やっぱり君のおかげだね。



この夕焼けも覚えている。
今日は研修が終わって、最後のテストだったんだ。
目標通りに僕は監視部へ、Aはギリギリの所で統制部に行くことになる。


その結果も分かっているけれど、僕はあえて黙っておく。
そうじゃないと、Aの夢を傷つけてしまうことになる。




「……侑李?」

「…あ。」

「試験が終わって気が抜けちゃった?侑李にもそんなところ、あるんだね。」




そろそろ部屋に戻ろう、と彼女が歩き出すから僕も一緒に歩き出す。
その隣をずっと歩いていたいと思った。


現代に戻ろうとするところを、ちょっとしたズレのせいで別の過去に飛んじゃう事があるらしい。
それを『紙一重』と呼ぶことを、僕は知っている。



そんな奇跡の『紙一重』で出会えたなら、それはきっと……

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天凪(プロフ) - 千種さん» こちらこそ遅くなってしまい申し訳ございません…!素敵なご感想ありがとうございます(*^^*)嬉しすぎるメッセージのおかげで元気が出ます♪これからクライマックスまで温かい応援よろしくお願いします(〃'▽'〃) (2017年5月15日 17時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
千種 - 遅くなってしまいましたが、移行おめでとうございます!大好きすぎるこの作品。いつもドキドキ、ワクワクさせてもらっています(*´▽`*)これからの展開、楽しみにしています!頑張って下さい! (2017年5月13日 18時) (レス) id: cd7a5815e3 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - NMダイキング担さん» いつも温かい応援ありがとうございます!嬉しすぎるコメントにいつも元気をもらってます(*^▽^*)是非是非ラストまでお付き合いください!これからも更新頑張ります! (2017年5月6日 15時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
NMダイキング担 - 移行おめでとうございます!天凪さんの作品、大好きです!!これからも頑張ってください! (2017年5月6日 0時) (レス) id: 238f9174c4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:天凪 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2017年5月5日 23時

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