もう、つらい思いなんてさせない。【まふまふ】 (ページ37)

今日:5 hit、昨日:5 hit、合計:149,027 hit

＊６（刹那）ページ37

まふまふside

「……動くなって、言ったよね？」

僕を指さして幸助さんが言い放つのと、その足が手すりを蹴ったのは、どちらが早かっただろう。
どっちにしろ僕には目の前で起こっている出来事がスローモーションにしか見えない。
そしてそのスローモーションの世界の中で、僕は手を伸ばして、身を乗り出して、
Aの腕を掴んだ。

今走らなきゃ、今度こそAは僕を置いて行ってしまう。

………でも、掴んでいたのはもう一人の腕だった。

「………っ、Aっ…っ、！！」

右腕に一気に２人分の体重がかかる。
普段ひきこもってばかりで運動なんかしないに等しい僕にとっては、かなりの重みだった。

当然、掴んだ瞬間ビキィッという嫌な効果音のつきそうな痛みが走った。

「……ほんっと…しぶといね、君」

苦痛に顔を歪める僕を嘲笑うように、幸助さんが口角を上げる。
歯を食いしばって、悲鳴を上げる右腕にさらに力を込める。

「…くっ、……A、大丈夫だから、っもう少し待っててね…っ」
「まふまふ、落とすなよ…っ」

そらるさんが僕と同じように身体を手すりから乗り出して、僕が掴んでいる幸助さんの腕に
手を伸ばし、力強く掴む。

「っわかって、ます…っ！！」

夜の闇に溶けてしまう前に、強く吹く風に吹き消されてしまう前に、引き上げるから。

今助けるから、何も心配しなくて大丈夫。

大丈夫。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

貴女side

なにこれ、いったい何が起きてるの。
私、悪い夢でも見てるの？

上から見下ろしているまふくんと、そらるさんの顔は苦痛に歪んでいて、苦しそうで。
涙で霞む暗い背景にまふくんの声が響く。
私の頬に、まふくんの汗がぱたっと落ちてくる。

「そらるくん、君もしぶといね…さっき散々いじめてあげたのに」
「…っ黙れ……っ」
「ふふ、君にとって、アレは黒歴史になるんだろうな。
　…出したことしかないところに、強制的な挿入を受けるあの恐怖感…また味わいたいの？」

そらるさんの頬がひくっと強張り、目が泳ぐ。
それでも手の力だけは緩めずに、私を引き上げようとしてくれる。

どうして、どうしてそこまでして…そらるさんがそんな思いしたのは、私のせいなのに。

幸助さんはその様子を見て、深くため息をついてボソッとつぶやいた。

「……やだな、このままだと４人一緒に落ちちゃいそう」

…え………？