もう、つらい思いなんてさせない。【まふまふ】 (ページ29)

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そらるside

「Aさんの…元カレ…？」

目の前に座っている男の言葉を復唱する。
元カレって、あの、Aさんが話していた？

「知らないわけないよな？だって、いろいろ嗅ぎ回ってたろ？」
「い…ッ！」

男の指が俺の髪を掴んで、そのままぎりぎりと指に絡めていく。
髪の毛が引っ張られる痛みと、全く笑みの表情を動かさないこいつに対しての恐怖が、
俺の思考を鈍らせていく。

「君でしょ、俺のこといろいろ調べ回ってたの。知らないとでも思った？」
「…っく…！」

バレていたのか。
いや、はじめから知っていたのかもしれない。

「よくやるよね。わざわざ調べなくたって、聞きに来れば教えてあげたのに」

にこにこしているこいつの本当の表情が読み取れず、余計に怖くなる。
その間にも髪の毛がだんだん抜けていく痛みで景色が滲む。

「ああ、そういえば頭の怪我、大丈夫？ほら、頭って下手に打つと怖いじゃん。
少しは手加減するように言っとけばよかったかな」

パッと手を離してそう言う。
独り言のように淡々と喋る声に、少し油断してしまった俺が馬鹿だった。

「じゃあ、ちょっと喋ってもらおうかな」

俺の顎を掴んで、自分の顔に近づけてそう言った。
…喋るって、何を…？

「君なら、知ってるよね？……Aは、何処にいる？」

ぞわ、という嫌な感覚のすぐあとに、ものすごい恐怖心が脳内を占領した。
こいつの視線から目を逸らしたいのに、身体が震えて思うように動かない。

そうだ。
こいつの目的は最初から
___________________Aさんだ。

「なぁ、知ってるだろ？Aは、今何処にいる？」

教えるわけにはいかない。
こいつの目的がAさんだとわかっているのだから、尚更。

「…知らない。知っていたとしてもお前には言わない」

俺がそう言った瞬間、左頬に熱と痛みが同時に叩きつけられた。
それがビンタだとわかるまでに、かなりの時間が経っていた。

「へえ…この状況下でよくそんなこと言えるね？見上げたよ。…でも」

再び髪の毛を掴まれて、今度は上に持ち上げられる。
突然のことに頭が追いつかず、痛みに声だけが漏れていく。

「う、あ…ッ！い、痛ッ！やめ、離し…」
「おい、入っていいぞー、出番だ」

ドアが開く。
そこから入ってきたのは、俺よりもずっと身体の大きい、2人の男。

「ほら、好きにしていいぞ。喋るようになるまでやれ」

ドサッと音を立てて倒れた俺の前に、男が立った。
これが全ての始まりだった。