もう、つらい思いなんてさせない。【まふまふ】 (ページ25)

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案内された医務室で、僕は眠っているAの横に座っていた。

…なにが、起こったんだろう。

ただただ怖くって、逃げ出したかった。そんな数分間の出来事。
気づいたらAと一緒にここへ運ばれていた。

なんだったんだろう。

…夢？
そうだったらいいと、心の底から強く思う。
でも、きっと夢じゃない。

まだ、心臓がズキズキと痛みを訴えている。

「…なんで」

無意識にそうこぼした言葉は、誰にも拾われずに消えた。
僕はまだ眠っているAの髪をゆっくり梳きながら、頭の中で何度も回想する。

幸助さん…

まだ、Aを自分のものだと思ってるんだ。
Aは、まだ自分を好きだと思ってるんだ。

「……A…」

僕は唇を噛んだ。

なんで、どうして、Aがこんな思いをしなくちゃいけないの。
もう幸せにしてあげてよ、あきらめてよ。

あなたのせいで、またAが壊れちゃう。

「まふ…く…」

ベッドの上で眠っていたAが、僕の名前を呼んだ。
顔を覗き込むと、Aの瞳と目があった。

「…っ…A…？」
「…やっぱり、まふくんだ………」

Aはそう言ってふわりと笑う。
すごくやわらかくて、少し触ったらすぐに溶けてなくなってしまいそうな、そんな笑顔。

それを壊さないように、そっと、ほんとに大切にAの頬に手を伸ばす。

「んっ…ふ、くすぐったい…」

ふふ、とちょっとだけ楽しそうに笑ってるA。
その顔がかわいくて、ほんのちょっとだけくすぐってみる。

「あっ、ちょっとまふく、ん…っ」
「あは、ごめん」

しばらく笑ってたAだけど、周りを見てさっきのことを思い出したみたい。
笑顔がはがれて、そこからにじみ出てきたのは不安だった。

「夢じゃ、なかったんだね…？」

そうつぶやいて、瞳に薄く涙を浮かべた。
僕はなんて慰めたらいいのかわからずしばらく黙っていたけど、ゆっくりうなずいた。

「…うん」
「…ごめん、なさい…まふくん…」
「なんで謝るの？僕全然大丈夫だから。Aのほうがたいへんでしょ」

泣きながら布団を頭からかぶる。
僕はその布団の上からそっと頭を撫でた。

「まふくん…きて」
「…はいはい」

いくらか安心したのか、布団の中から腕を伸ばすA。
僕はそっと布団ごと優しく抱きしめた。

「まふくん、……すき」
「うん、…僕もだよ」

きっと何があっても変わらない、ずっと大切なこと。
愛してる、なにがあっても。