もう、つらい思いなんてさせない。【まふまふ】 (ページ11)

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貴方side

まふくんのスマホを手に持って、何回も深呼吸を繰り返す。
おかあさん。
最後に笑顔を見たのは、いつだったかな。
もういちど、笑ってくれるかな。

『まりあさん、Aの声が聞きたいって言ってたよ。
　彼氏のことも、話してみたら？きっとわかってくれるよ。』

まふくんのあの言葉、信じてみようか？

震える指を、スマホの画面に滑らせる。
そっと耳に当て、つながるのを待つ。
途端に不安になり、まふくんを見ると、ふわっと笑って「大丈夫」と私の頭をなでる。
その隣では、そらるさんも笑ってうなずいてる。

２人の笑顔に安心した瞬間、コール音が途絶えた。

〔…もしもし？真冬くん？〕
「あ…」

１年ぶりにきく懐かしい声に、声が詰まる。
もう一度、大きく深呼吸して、胸に手を当てる。

「もしもし、おかあさん」
〔…………Aちゃん？〕

電話の向こうで、おかあさんが私の名前をつぶやいた。

「…うん、Aだよ。」
〔Aちゃん？Aちゃんなの？ほんとうに？〕

おかあさんの声が、だんだん泣きそうになっていく。
それにつられるように、私の視界も歪んでいく。

「っ…うん、…久しぶり…っ」
〔久しぶり、じゃないわよぉ…みんなあなたのこと心配してたのよ？
　彼は？今そこにいるの？〕

彼。…ごめんね、おかあさん。

「……………別れちゃった。」

〔…………………………！〕

ごめん、ごめんね。幸せになんてなれなかった。
そう伝えた瞬間、涙がこぼれ落ちた。

「昨日、出てっちゃって…っ…」
〔……〕
「…ごめんなさい、ごめっ…」

ずっと無言だったおかあさんが、スマホの向こうで優しくわらった。

〔…どうしてAちゃんが謝るの？Aちゃんは悪いことしたって思ってるの？〕
「…ううん、私はそうは思ってない……」
〔じゃあいいじゃない。後悔する必要なんてないわよ。
　Aちゃんなら、きっとまたもっといい人に逢えるわよ。〕

ありたきりな励ましの言葉だったけど、私にとっては十分すぎるくらい十分だった。
涙があふれて、ぬぐうのが間に合わない。

〔顔が見たくなったら、いつでも帰ってきていいからね。
　みんなAちゃんのこと大好きだから。いつでも会いたいって思ってるからね。〕

おかあさんの言葉が、こんなにあたたかいものだったということに、今気づいた。
自然と口角が上がって、笑顔になる。

「うん、おかあさん、ありがと」