もう、つらい思いなんてさせない。【まふまふ】 (ページ43)

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ただいまページ43

まふまふside

「……え…？」

目の前で起こっていることが信じられず、何度も瞬きを繰り返す。
しかし視界に映りこむ光景は、決してそれが夢なんかじゃないと、幻覚なんかじゃないと、
そう教えてくれる。

Aが、僕を見て、瞳を揺らして淡く笑っていた。

「……まふくん、だ…」

僕の頬に、Aの指先がほんの少し触れた。
細くて、柔らかい感触は間違いなく、僕が愛した彼女の指先だった。

頭がついていかないまま、本能的にその指先を手で握る。
小さくて暖かい手に、僕を映している涙越しの瞳に、とうとう涙があふれだした。

夢じゃない、夢じゃなかった。

「…A…？Aっ…？僕が、分かるの？…夢じゃ、ないっ…？」
「…うん、私だよ、まふくん…っ、いっぱい待たせて、ごめんなさい…」

たまらず白い布団ごとAを抱き寄せる。
その小さな細い身体が、自分の腕の中に収まっているのが未だに信じられず、きつく抱きしめる。

「ん、…まふく、…苦し…っ…」
「目も、指も、唇も、ちゃんとある…っ…Aだ、僕の、Aだっ…」

君が死んでしまうなんて、僕は思ってなかったよ。

涙で使い物にならない視界。きっと僕は今、人生でいちばんみっともない顔をしているのだろう。
Aは今までよりも、もっとずっときれいに笑って、僕を見つめて笑っていた。

「ただいま、まふくん…」

「………おかえりなさい…っ、A…っ…」

その言葉を口にした瞬間、先程よりももっと強い愛しさの感情が押し寄せてきて、
Aが僕を抱き寄せて、「だいすき」とつぶやいてくれたのが聞こえて、

ずっとずっと欲しくて、焦がれた愛を与えられて、

心が溶けて蒸発しそうなほどの幸福と同じだけ、苦しかったぶんと同じだけ、

涙で心が洗われていくのを感じて、

昨日までの灰色の色のない世界が、幸せの感情で満たされていくようにおもえた。

＿＿＿＿＿

「…ふふ、ふたりでいっぱい泣いちゃったね」
「……うんっ…でも、しあわせ…」

Aの胸に顔を埋めて、いつものように心臓の音に耳を澄ませる。
いつもの規則正しい心拍数は、すこし早くなっているように思う。

…自惚れ…かな。

「私、２年も眠ったまんまだったんだね…ごめんね…」
「んん、いいの…」

僕はそっと目を閉じる。
窓から差し込む光は、もう赤色を帯びて、夜を誘い込もうとしている。

…もうそろそろ、閉院のじかんだ。

「またあしたね、A」