春が来た ページ13
気まずい沈黙が流れて数分。いつの間にか車は私の家の近くに来ていたらしく、窓の外は見慣れた風景になっていた。
『折原さん、ここで大丈夫です』
「ん？もう着いたん？」
『いえ、でももうすぐそこなので…』
「すぐそこなら、ここで降ろしても大して変わらんよ。えーっと、もう一本先？」
『…すみません、ありがとうございます』
「んふふ、どーいたしまして」
結局、折原さんにはマンションの前まで送ってもらってしまった。道端に車を停めてくれた折原さんに感謝の言葉を言おうと、口を開こうとした時。
『あの』
「あの」
『お先にどうぞ！』
「お先にええよ」
二回も言葉が重なり、思わず私たちは見つめ合った。そして数秒後、二人同時に吹き出して笑ってしまう。
『すみません…！まさか二回も被るなんて…！』
「いやいやいや、最後の最後にこんな被る事ある？」
いつの間にか先程までの気まずさは遠く彼方へと消え去り、車に乗った時のような穏やかな空気が戻ってきていた。
「そうやAちゃん。後でちゃんと焼肉行く日程決めたいから、連絡先聞いてええ？」
『は、はい…！』
折原さんからスマホを差し出され、先程の焼肉の話が社交辞令ではなかった事を知る。嬉しさのあまり顔が緩みそうになるけれど、表情筋を一生懸命働かせながら連絡先を交換する。
「ほな、気ぃ付けてな」
『はい、本当に今日はありがとうございました！』
「おん、おやすみ」
『お、おやすみなさい…！』
ふわふわとした気持ちと足取りで家に帰る。マンションの入り口に入る直前、折原さんの車が停まっている方向を振り返ると、まだ折原さんの車は停まったままだった。折原さんの顔はもう見えなかったけれど、一礼してからマンションの中に入って行った。
『ただいまー』
「お帰りー…何、なんかいい事あった？」
自宅に帰ると、姉が玄関まで迎えに来てくれた。姉は飲み会の日は必ず家に帰ってきてくれて、私の安否を確認してくれる。もし何かあれば、姉から心配性の両親に連絡がいくので、下手な嘘や誤魔化しは通用しない。
『え、分かる？！』
「うん。すごく幸せそうな顔してる。………ふーん、Aにもとうとう春が来たか」
『え？！ち、違うよ…！』
ニヤニヤと笑う姉から逃げるように自室へと駆け込む。部屋に入る直前、後ろから「お風呂入り忘れないようにねー」と声を掛けられたけれど、恥ずかしさが抜けず、つい「分かった！！！」と叫び返してしまうのだった。
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紫苑(プロフ) - リリトさん» リリトさん、コメントありがとうございます！ そんな偶然があるんですね？！自分で名前を設定しておきながら驚きました笑 (2020年11月9日 19時) (
レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
リリト - 漢字は違うけど、本名同じ人おったｗｗ (2020年10月22日 17時) (レス) id: 5c9bfe90e0 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - ひよりんさん» こんばんは。メッセージを返信させて頂きましたので、ご確認頂ければ幸いです。 (2020年8月22日 0時) (レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
ひよりん(プロフ) - こんにちは。メッセージ送らせていただいたので、見ていただければ幸いです。 (2020年8月21日 21時) (レス) id: 222226e292 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - センラさん推しさん» センラさん推しさん、コメントありがとうございます！ 神様だなんて畏れ多いです…！ですがありがとうございます、嬉しいです。 これからも頑張りますね！ (2020年3月18日 22時) (レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紫苑
| 作成日時：2019年11月1日 18時
