10話 千歳の思い出 ページ10
雫「そう、雫だよ」
そういう彼女はいつもより儚く見えた
何故だろうか…
その時握っていたばあちゃんの手がピクッと動いた
それは奇跡に近かった
梓「ばあちゃんっ!!」
何度も…何度も何度も呼ぶとばあちゃんはゆっくりと俺の手を握り返した
そして一言一言…言葉を繋いでいった
千歳(祖母)「…あず…さ…かい」
ばあちゃんの手を強く握り頬に付け大粒の涙を流した
梓「おれだよ…梓だよ…!」
目を開けることはないばあちゃんはそっと笑みを浮かべた
千歳「あの人は…もういないんだろう?」
あの人とはきっとじいちゃんの事だろう
気づいてたんだ…。
梓「二年前…病室の前で静かに…」
そういうとばあちゃんは「知ってるよ」と掠れた声で言った
いつの間にか集中治療室のガラスの前には多くの医者や看護師がいてこちらを見ていた
そっとしておいてくれるのだろう
千歳「梓…貴方に言わなきゃいけないことがあるの…」
酸素マスクを外すとまた語り始めた
千歳「梓…あんたはこれからもずっと1人じゃない
例え私が死のうと…全世界中の人間があんたの敵になろうと…
私や与作さん(祖父)…あんたのお母さんお父さんはずっと味方さ
そしてそこにいる雫だってね」
雫の名を聞いた途端俺は目を見開き驚いた
ばあちゃんは目を開けていないし雫の存在を知ってると思わなかった
雫はうんうんと二三回頷いた
千歳「私はあの子を産めて…梓、貴方という孫が出来てほんとに幸せすぎるくらいの人生だったよ」
梓「そんな…これでお別れみたいなこと言わないでくれよっ!
俺…まだばあちゃんに何もしてあげれてないっ!!」
千歳「十分…してくれたさ
一緒に本を読んで、遊んで、歌って、お風呂に入って…たくさんの思い出をくれたじゃないかい」
ばあちゃんが並べる言葉は全て日常生活で行った全てだった
千歳「本当…十分すぎるくらいだよ」
ばあちゃんは笑みを浮かべ静かに涙を流した
千歳「ふふっ…もう時間かね」
ばあちゃんはそっと俺の頭を膝に乗せると赤子をあやす様にポンポンと優しく叩き始めた
優しく何度も何度も頭を撫でて、優しく髪を解いていた
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作者名:狸仔 | 作成日時:2016年10月24日 22時