幸せ /am ページ20
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1月初めの寒空の下
暖かいのは、繋いだ手から伝わる彼の体温だけ。
『そろそろ帰る？』
「んー、やだ」
『なんで(笑)』
「たまにはいいでしょ？外も」
くふふって笑って見つめ合って、二人の冷たくなったおでこをすり合わす。
私の鼻にかかる彼の白い息
彼の鼻にかかる私の白い息
それはそっと東京の空気に溶けて消えた。
『ねぇ、ちょっとマスクずれてる』
「バレないってばこのくらいじゃ」
『だーめ、もしバレたらどうするの』
「…逃げる？二人で」
『…馬鹿。』
彼がアイドルだから。そんな理由で好きになった訳じゃない。ただ好きになった人がアイドルだっただけ。
普通に恋愛が出来ないことを何度も憎んだり、無意味に彼を責めたりしたけど、その度に貴方は少し困った顔で笑って
「そんな俺を好きでいてくれてありがとう」
って、私の頭をそっと撫でるの。
『…いつかさ、子供連れて外歩きたいね』
「……」
『みんなでお揃いの服とか着てさ、なんでも無いことで笑って、』
『普通の、普通の家庭築きたいね』
ワガママでごめん。普通の幸せを願ってしまってごめん。貴方の負担になってごめん。
心の中に溢れるごめんは不器用な私には何故か言葉に出来なくて、いつもいつも彼を傷付ける。
「A」
彼の少し掠れた声が私の名前を優しく呼んだ。
『…はい』
応える私の声は、少し震えてた。
「俺ね、やっとAを幸せに出来るよ。」
空から、ちょうど雪が降り出した。
私の丸くなった目に彼が写って、彼の優しい目に私が写った。時が、止まったように感じた。
『どういう…こと？』
「…やっと事務所から許可下りたよ。結婚。」
遠い日の夢が、遠い日の幸せが、いつの間にかすぐ近くまで来てたなんて私、知らなかった。
「子供連れてさ、またここ来ようよ。お揃いの服着てさ、何でもないことで笑お？」
私の視界の彼が徐々に歪んで、私の頬を涙が伝う。彼の目も、少し潤んでた。
「A」
名前を呼ばれ顔を上げると、そこにはマスクをそっと外す右手。
『ね…、バレちゃ…』
「結婚しよう。」
ぐっと顎を持ち上げられて重なった唇は、涙のせいで少ししょっぱい。
彼のダッフルコートに積もった雪がゆっくり溶けて水滴になるのを見つめながら、
『よろしくお願いします』
って、二人で笑った。
街は、今日も寒い。
end.
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ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます！とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります！ (2020年1月5日 18時) (
レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ウタ | 作成日時：2019年1月31日 21時
