日常 /os ページ16
絵の具の匂いと木の匂いが混ざったなんとも言えないこの香り。私の好きな、この香り。
窓際で一人、キャンパスに筆をはしらせる姿を、私はずっと隣の木の椅子に座って見ていた。
「ん…、」
たまに思い悩んだ顔しては、マグカップの中の冷めきったコーヒーを飲んで、また視線はキャンパスへと移る。そんな姿を、私はずっと隣で。
「よしゃ、帰ろ」
『あれ、今日早いね』
「メシ食って帰ろう」
『おっ、いいじゃん』
ガラガラと音を立てて開いた扉
上には’’美術準備室’’と書かれたプレート
貴方と私は、先生と生徒。
「じゃね、後で」
一階の階段で私達は別れる。私はそのまま門を出て、一つ目の角まで歩いた。いつもの駐車場から出てくる先生の車が私の前で止まって、それに乗り込む。
「何食いたい？」
『オムライス、かな』
「お前いつもじゃん」
『じゃあ智くんの好きなのでいいよ？』
「オムライスで。」
何も考えてないような素振りで、実は私の事を一番に気遣ってくれる人
それが、私の大好きな大野先生
「食った食った」
『美味しかったね、ここの』
「また来よっか」
『次はキノコの方食べようかな』
「じゃあ俺明太子の。」
なんて言いながら、私達はまた車に乗り込む。
歩道には同じ学校の同級生のカップルが手を繋いで歩いてて、あいつら付き合ってんだ、なんて先生が隣で笑ったのを私は目を瞑って聞いてた。
しばらく車を走らせて、徐々に近付いてくる私の家
「あ、そうだ」
『ん、なに？』
「ずっと言おうと思ってたんだけどさ」
車は減速しながら私のマンションの前で止まる。
「一緒に住む？卒業したら」
いつもみたいに少しダルそうな顔でそう言った先生の横顔はどこか遠くを見てた。
『…私と？』
「他に誰いんの」
『ほんとに？』
「俺嘘つかねぇよ？」
一気に静かになる車内
車を横切るベビーカーを押した母親の優しい声だけが聞こえる。
「ま、とりあえず勉強頑張れよ」
『…うん』
「ほら、今日は帰んぞ」
『うん』
そっと車の扉を開けて外に出ると、貴方と私は途端に他人。
だってこれは、誰にも秘密の、放課後の愛
『好きだよ』
ゆっくり動き出した先生の車を見つめながら思う。
今日も貴方が好きで、大好きで。
卒業したら終わりなんじゃないかって不安だった気持ちも、たった今無くなった。
そんな、今までより少しだけ先生のことが好きになった、とある放課後の話。
end.
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ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます！とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります！ (2020年1月5日 18時) (
レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ウタ | 作成日時：2019年1月31日 21時
