小夜時雨 /mj ページ14
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私の名前を呼ぶ声が今も頭から離れずにいる。
あの日エレベーターホールに響いたまたね、はきっと幻だったんだと思う。
次が無いなら言わなければいい。期待なんてさせなければいい。二年越しのそんな想いは、今日もそっと空へと消えた。
「おはよう」
『おはようございます』
斜め前のデスクの櫻井さんが、今日もコーヒー片手に私に声を掛ける。
「最近、雨多いな」
『そうですね』
「...あんま、無理すんなよ」
慌ただしく動くオフィスの外は、台風が近付いているらしく強い雨が降っている。
彼だけが私の過去を知っている人物だった。
’’知っている’’と言ったら少し語弊があるかもしれない。’’気付いてしまった’’と言うのが妥当。
今から丁度二年前の、溺れるような、愛の話。
・
その日も今日みたいな雨が降っていた。
暗いオフィスには私と、櫻井さん、そして、彼。
『あ...私、傘持ってきてない』
「俺、送るよ。」
そう私に声を掛けた彼は、同期の松本潤。
誰もが認める容姿。性格。完璧、という言葉が良く似合う人だった。
『え、いいよそんなの悪いし』
「別に、明日休みだしいいよ」
「歩きでしょ？夜も遅いし送ってく」
時刻は24時を過ぎていたと思う。私達は二人でオフィスを後にした。
松本くんの、紺色の傘の中に二人。時々当たる肩に、息が止まるほどの思いをしたのを覚えてる。
「Aってさ、彼氏いないの」
雨の音の奥に、そんな松本くんの声が聴こえた。
いつからか呼び捨てになった名前は、呼ばれる度にトクンと胸が鳴る。
『私？居ないよ (笑)』
「なんで？居そうなのに」
『全く。出会いが無いからなぁ、』
あはは、って私の乾いた笑い声が夜の街に響く。彼の顔はなんだか怖くて見れなかった。
『松本くんは？』
「ん、俺？」
「居ない。ずっと片想いしてる人が居るから」
『…片想い？』
「そいつさ、来月結婚すんの。」
遠くを見つめて言った松本くんの言葉は、私の胸を、ぐっと刺した。
私が想い続けた彼には、既に想う人がいて、
彼が想い続けた人にも、既に決まった人が居た。
「…高校の同級生、で。ずっと好きで。」
「やっと機会が出来た。今の会社に入社できて想いを伝えるなら今だと思った。」
「...そしたら彼女の方から結婚するって言われた。」
あはは、って彼の乾いた笑い声が夜の街に響く。見上げた先の瞳の奥は、笑ってなかった。
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ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます！とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります！ (2020年1月5日 18時) (
レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ウタ | 作成日時：2019年1月31日 21時
