第2話『一歩先の諍い』 ページ3
(続き)
「今日働けばその分何か食べれますよ、家賃の心配をせず食べるもの程美味しいものはないと思います！」
「それはそうだけど…美味しいものを食べると家賃のことなんかすっかり忘れるしなあ、」
相変わらず食い意地の強い人だ、と内心苦笑しつつ、このままではせっかくのお天気が泣いてしまうと、もう一度先生を窘めようとしたその時だった。
ふとドアの外で誰かの声が高くこだまするのが聞こえた。
『私何もしてません！私じゃないです！』
人の声が金属音のように高くこだましたとき、その言葉は本心と違う言葉、つまり、嘘を言っている証拠だ。
私はそうやって生まれた時から嘘を聞きわける事ができた。
(嘘だ、嘘をついてる…！)
何か良くない予感がした私は考える間もなく外に飛び出て声の主を探し始めた。
「どうしたの？！鹿乃子くん！」
驚いて後をつけてきた先生の声は、何度もこだまする少女の嘘に被さって聞こえなかった。
「いた、あの子だ！」
私が目をとめた先には、少なからず人が集まり、何か揉め事を起こしている様子だった。
激昴する女の人を宥める大人たちの輪の中に、一人の少女が困窮した表情で俯いていた。
「先生行きましょう！あの子ウソをついてるんです。」
「か、鹿乃子くん、僕は何も見えないから帰っていいかな。」
「来てくださいお願いしますー！！」
もはや強引に先生の腕を引っ張り、人集りへと歩を進める。
「やれやれ、お人好しなんだから…」
そんな先生の呟きも無視して人集りの縁に立つと、少女は、私より少し年上の女性だということが分かった。
焦げ茶色の髪を後ろで結い、顔の整った綺麗な人だった。
直後その人からまた高く響く言葉が漏れる。
『私、何もしてませんから…』
(嘘、この人やっぱり何かしたんだ。)
確信した私がその人に白状させようと、少し息を吸い込んだその瞬間、
「何があったのか、聞かせて下さい。」
先生の冷静沈着な声色がその場のざわめきを収めた。
「おう、先生じゃねえか！ちょうどいい所に来たってもんだィ、」
先生が探偵であると知っているご近所さんは、そう言って先生を中心に連れていく。
(いけない、私ったらまた嘘が確かだからってよく考えもせず責めるところだった！話をしっかり聞かなきゃ…)
私が己の愚行を恥じている間に、先生はこの二人の女性に何があったのかを聞き出していた。
·
続く (更新停止中)
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作者名：のと丸 | 作成日時：2020年8月11日 21時
