33話 ページ35
「僕たち外で着替えるから、Aはここで着替えなよ」
ハリーがロンに、それでいいよね？という目線を向ける。
しかし、ああ、と言いかけたロンを遮ってAが着替えを持って立ち上がった。
『ううん大丈夫よ!私更衣室で着替えてくるわ。二人はここで着替えて？』
じゃあまた後で!とさっさとAがコンパートメントを出ていく背中を、ロンとハリーが見つめる。
「汽車の中をもっと見たいんだよ。最初来る時もソワソワしてたもの。好奇心旺盛過ぎるって、考えものだよな」
ロンが上着を脱ぎながら呆れたように言ったので、ハリーも着替えながら笑った。
「だけど彼女、ほんとに天使みたいだ。僕初めて会った時、羽が生えてると思ったくらい」
「分かるけど、あんまりAにちょっかいかけると、あの二人に何されるかわかんないよ」
「あの二人？」
「フレッドとジョージのことさ。二人、昔からAのこと可愛がってたからね」
そんな昔からの知り合いなのか、というか家族ぐるみの仲なのか、というか──。
「僕、ちょっかいなんかかけないよ」
＊
更衣室に向かう、という口実の元私は汽車内を歩き回っていた。更衣室に行くのは嘘じゃない。
二人に"ここで着替えていいよ!"と言うことで、もしや好感度アップまで狙えたのでは？と割と真面目に考えていると、突然両肩に重みを感じた。同時に、耳元でよく似た声が聞こえた。
「やあA!」
「こんな所で何してる？」
『うわあ!？フレッド!ジョージ!びっくりした……あ、タランチュラはどうだったの？』
「ああ、毛むくじゃらで気持ち悪かったよ」
「Aは見なくて正解だった。ところで、もうすぐ着くってのにまだローブに着替えないのか？」
ぎくっとして咄嗟に答える。
『更衣室を探してたの』
普通に言ったはずなのに、双子はニヤッと笑った。
「相変わらず嘘がヘタクソだな」
『嘘じゃないよ!』
「そういうことにしといてやるよ」
くしゃりとまた頭を撫でられた。
この双子──特にフレッドは、この撫で方がお得意なのだ。手櫛で髪を整える私を、彼は楽しそうに見てる。
結局二人に更衣室まで連れてってもらって、私の汽車の冒険は呆気なく幕を閉じた。
「ここが更衣室」
「入ったら直ぐに鍵を閉めろよ」
『わかってる。ありがとうフレッド、ジョージ』
同じ顔でにっこり笑って、双子は声を揃えた。
「「お易い御用さ!」」
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作者名：とま | 作成日時：2022年1月31日 23時
