夏夜の幻想【五条悟】

先輩との過ごし方 前編 ページ9

五条さんから、買い物を頼まれた。

せっかくだから、他に仕事で必要だった物もついでに、まとめて買う事にした。

多くなりそうだと予測して、車で来たのまでは良かったけど。

「一人で来るんじゃなかった·····」

何で私、一気にこんな買ったの。

馬鹿だ。

いちいち車に戻るのを面倒くさがった結果、大量の荷物を一人で持つ羽目になってしまった。

かさばり過ぎて歩く度に人にぶつかるし、通行人からは大量の荷物を持つ若い女にじろじろ視線を向けられる。

最悪。早く戻ろ。



ため息をつきながら駐車場に戻っていると、旅行代理店を見つけた。

ディスプレイには様々なポスターが所狭しと貼られている。

「わ〜沖縄いいなぁ」

でも長期旅行なんて、なかなか行けないし。

「うわ、この向日葵畑も素敵！温泉もいいなー、この日に泊まれば花火大会がある！」

一人ではしゃいでいたが、じゃあ誰と行くんだと考えると、虚しくなる。

こういうのは、彼氏と行きたい。



そう言えば。

そんな話、昔したっけなぁ。




ふと、高専時代の事を思い出した。

あれは、何故か私と一個上の先輩たち3人でファミレスに行った時のこと。

当時からモテていた五条先輩は、携帯をつつきながら、うへぇと顔を歪めた。


「どうしたんだい、悟」

「女って何でこう見に行きたがるの？」

「なに、見に行きたがるって」

硝子先輩の問いかけに、五条先輩が答えた。

「花火、見に行きたいんだと。夏は花火、冬はイルミネーション、春は桜とか見に行きたがるだろ？向日葵畑とか、花畑系好きだしさ。ねぇ、A、何で？」

「確かに、好きかも·····」


言葉につまった私に、五条先輩はたたみかける。


「一緒に行って見るだけじゃん、何が楽しいの？生産性ねぇな」

「女子って、生産性ないモノ好きだもんね」


硝子先輩が言う。
確かに。
ぐだぐだなおしゃべりや愚痴も、大概生産性はない。


「何で俺を付き合わせるんだろうな」


不機嫌そうな五条先輩を、夏油先輩がなだめる。


「まぁまぁ、悟。好きな人とロマンチックな体験を共有したいんだよ。一緒にワクワク感を楽しめば、関係がより親密になる。」


夏油先輩が冷静に分析する姿に、萎えてしまう。


「先輩達ものすごく論理的に考えますね·····」


好きだから行く、楽しい、とかじゃダメなの？



「行かねぇ、と」

五条先輩は早速、お誘いを思い切り断っていた。

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