180 ページ33
挨拶の為にシンと静まったコートも、すぐに応援の声で埋まる。スポーツ観戦なんてしたことは無かったから、こういう雰囲気になるんだ、と少し感心した。また一つ知識が増えて嬉しい。
しかし知識を増やして楽しむ場ではない。少なくとも今は。頑張って下さい、と小さいながらも声をかけると、ふっと烏野の何人かが笑顔でこちらに拳を向けた。恥ずかしかったけれど、私も小さく拳を作った。
第一試合が始まる。田中先輩がさっそく相手のブロックを吹っ飛ばすように強烈なスパイクを見せた。流石だ、と思っていると、騒ぎすぎで審判から注意を受けていた。会場からくすくすと笑い声が聞こえる。私は眉を下げて笑うしかなかった。
でもこれで分かっただろう。彼らは「落ちた強豪」でも、「飛べない烏」でもない。今まだ尚成長を続ける人達なのだと。東峰先輩のスパイクも決まって、恐らく次は彼の番だ。
さあ、誰もを驚かせるその一撃を、どうか決めてくれ。
彼が地を蹴って飛び上がる。一瞬静かになって、誰かが言った。
「＿＿飛んだ」
その様子に、私は笑った。こうも簡単に貴方は人の目を集めてしまうのね。
そして烏野は「落ちた強豪」から脱出した。
順調に第一試合を勝利した彼らを見届けて、私もすぐに席を立つ。少し離れたところにいた青城の誰かが私を見ていた気がするが、無視。私は私でやる事があるのだ。
張り出されている組み合わせ表を見る。早いところはもう終わっていて、それを手元のコピーにスコアを書き出していく。第二回戦の相手は伊達工業だ。スコアも25-7と25-8で圧勝。少しだけ身震いした。
「あっ神風さん！」
「あ、ひ、日向くん。お疲れ様」
「ありがと！」
「皆さんも、お、お疲れ様です」
「おう。応援届いたぞ！ありがとな」
澤村先輩の笑顔と嬉しい言葉にほっとした。私が自分で言うのも何だが、割と小さい声で聞こえないと思っていた。伝わっていたなら何よりだった。中々恥ずかしかったけれど、次も頑張って応援しようという気持ちになった。
忘れないうちにコピーの組み合わせ表を先輩へと差し出すと、驚いたように恐る恐る受け取った。なんだろうと不安になっていると、
「これ、もう書いたのか？」
と言われる。張り出されている方は全て書き込まれたばかりだったのに、コピーの方にきちんと書き込まれていることに驚いたのだろう。私は手元を見ないまま字を書くのは得意なので、こういう写す作業は赤子の手をひねるよりも簡単なのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 50人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ReG | 作成日時：2022年2月22日 21時
