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あの後、その笑顔に恐怖を覚えたか分からないが、ともかく私を生贄に差し出して彼らは別の場所へと移動した。しっかりバレーボールを持っていったので、練習でもしに行ったのかもしれないが、取り残された私は酷く怯えていた。
来るはずでは無かったのに、何故私は体育館に入っているのだ。
「本当、ごめんな、ビビらせて……」
主将の澤村先輩がそう言って私に謝る。本当に困ったように眉を下げていたので、私は慌てて首を振った。彼らを追い出した人とは思えなかったが、彼らを笑顔と言葉の一つで黙らせたのを私は見ている。
「い、いえ、あの、大丈夫です……、わ、私のせいなので、彼らをあまり、その、責めないで頂きたい、のですが……」
「ああ、大丈夫、分かってるよ。ちょっと圧かけただけで、本気で怒ってないから」
彼のその言葉に心底ほっとした。目をつけられたのは仕方ないが、彼がこれから活動するに当たって、もうあの時のようなことになるのはごめんだった。
「で、でもあの、私」
「あれ、来てくれたの?」
「はうっ!?」
「お、清水。見学らしいぞ」
先程の美人な先輩が私をきょとんと見ていた。また変な声が出てしまったが、彼女は今度は笑顔を見せた。清水先輩というらしい。名前を間違えないよう、主将さんと共に脳に刻み込んだ。
「嬉しい……ありがとう」
「はえっ、えっと、あの……はい……」
その綺麗で長い指に自分の手を包まれてしまえば、私はもう何も言えなくなってしまった。どちらにせよ、今ここで違いますと声をあげる方がよっぽど大変なことだった。
真っ赤になる顔を隠すように彼女から目を背けた。彼女はそれを止めもせず、楽しそうに私に声をかけてくる。本当に嬉しそうで、見学にきたのが私でごめんなさいという気持ちになった。
「今日は本当に見学だけでいいから、見ていって。お仕事は私がやるから」
「えっ!?いえ、私もお手伝い、します」
「いいの、私が見てほしいから」
引き下がらない清水先輩だったが、それだと私も引き下がれない。入部するかも分からない私をそこまで気遣う必要はない。むしろ使い倒してくれた方が本望というところだ。
「わ、私が……嫌です。先輩が、頑張っている横で、ただ見るだけ、なのは」
思い切ってそう言うと、先輩はびっくりしたようにこちらを見て、ふわりと女神のように笑った。その笑みは心から嬉しそうで、私はぽかんとしてしまう。それくらい、綺麗だった。
「じゃあ、一緒にしてくれる?」
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月26日 4時