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「きゃあ!お嬢様!?」
「うわあああ!お嬢、大丈夫ですか!?」
「ていうかその男誰だよ!彼氏か!?」
「あ、あの、皆さん、落ち着いて下さい。あと彼を大浴場へ、ご案内してください。お着替えのご用意も」
帰ってくるなりびしょ濡れの私達に、出迎えてくれた従業員の皆さんから悲鳴が上がる。隣の彼は驚いて私をじっと見ていたが、びしょ濡れのままこちらを凝視しないでほしかった。少し恥ずかしい。
慌ててタオルが運ばれてくるので、大きな方は影山くんへと渡して、ごめんね、と私は謝った。
「そのまま帰すのは申し訳ないから、温泉入っていって。やっぱり身体が冷えるといけないから……」
「……いや、たす、かる」
いつもよりしどろもどろだ。やはり彼と言えども知らない人に囲まれるのは緊張するのかもしれない。そう思っていると、なんか、と彼は続けた。
「お前、いつもより喋るな」
「へっ」
きょとんと上から見下ろされて、本当に不思議に思っていることが分かる。家だから気が抜けたということが分からないというような、綺麗な瞳だった。
そもそもこの人の目は少し青みがかっていて、夜空のように綺麗なのだった。思わず見とれていると、その目が不満そうに細められたので、慌てて目を逸らす。
「ご、ごめんね、ぼうっとしちゃって……」
「いや、別に」
「お嬢!準備出来ましたよ!」
ぱたぱたと急いで駆け寄ってくる松井さんにお礼を言って彼をまた見上げる。今度は瞳に釘付けにならないように注意した。
「じゃ、じゃあ、影山くん、あの方から着替えもらってね」
「……お嬢?」
「えっ、えっと……それには触れないでくれると……」
私が抵抗すると、彼はすんなりと分かった、と返事をした。本当にこの人、どうやってこの純粋なまま生きてきたんだろうか。不思議でたまらない。
「お嬢様もですよー!早くあったまってください!」
「あっ、は、はい、ありがとうございます」
階段の上から伊丹さんという女性の従業員の方が私を手招きする。最近一児のお母様になって、ようやくお仕事を再開されたのだ。文句の付けようがないベテランである。
「それで、彼氏さんですか?」
「えっ!?ち、ちが、違います、お勉強を教えている人で」
「なんだ、残念ですね。相坂さんにも伝えましょうか?」
「い、いや、彼はすぐ帰らせる予定ですから」
相坂さんに話を通されたら夕ご飯のあとまで話が続いてしまう。彼にあまりに迷惑すぎる話なので、慌てて首を振った。
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作者名:ReG | 作成日時:2022年1月22日 18時