53．現実 ページ3
家に帰ってからも何か嫌な予感がした松本は、
家での食事を終えた後、公園へと向かった。
両親には山田と会うと伝えると、
行ってらっしゃいと素直に送り出してくれた。
家から15分ほど歩き、公園に着く。
Aの姿を探すと、
すぐにベンチに座っている彼女を見つけた。
初めてAが泣いているところを見た時と同じように、Aは肩を震わせて静かに泣いていた。
Aは松本がきたことに気づいていないのか、
ずっと俯き、涙を流していた。
松本は静かに近づいたが、
砂と靴が擦れる音で誰かが近づいていることに気づいたのか、
Aはパッと松本の方を見た。
Aはまさか松本が現れると思っておらず、
目を丸くしたまま松本を見つめた。
「どうして…」
消え入るような声でつぶやいたその声に、
松本はゆっくりと返答する。
「今日途中からいなくなっただろ？」
「何かあったんじゃないかと思って公園にきたんだ」
松本の一言に、Aの目からはさらに涙が溢れた。
Aは今日試合が負けたことをアミから聞いていた。
今日は辛い気持ちのはずの松本が、
こんな時でも自分のことを気にかけてくれていたことがAにとっては素直に嬉しかった。
松本はAを後ろから腕を回し、ぎゅっと優しく抱きしめた。
Aは、顔を松本の方へ向け、
お互いに目を合わせた後、軽い口付けをした。
そしてもう一度、Aは松本を見つめる。
「稔くん、」
「ん？どうした？」
「一緒に遠いところへ行かない？」
Aは溢れそうな涙をグッと堪え、少し笑みを浮かべながら松本に伝えた。
冗談だ、と言えるように保険をかけているような、そんな言い方だった。
心の奥底では本気だった。
Aは今直面している現実から逃げたかったのだろうか。
松本から返答がないことにAはとんでもないことを言ってしまったと思い、すぐに訂正しようと口を開きかけた。
その時だった。
「今から行くか」
Aが誘ったことだったが、
まさか松本がそう言うとは思わず、
ゆっくりと松本の方へと顔を見上げた。
松本の意を決したような面持ちに、
Aはゆっくりとベンチから立ち上がったのだった。
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作者名：usa | 作成日時：2023年11月6日 21時
