第56回壁外調査13 ―この世界とは… ページ13
・
一瞬、Aの頭の中は真っ白になった。
Aは5年前のことを知らない。
正確には地下街にいた為、わずかな情報しか流れてこなかった。
それこそ壁が破壊された後は食糧がなく、生きるか死ぬかの状況で、地上のことなど考える余裕などなかった。
100年間守られてきた壁が、わずか5年という短期間で、2回も壊される。
そんなことが、こんな突然に、現実に起こりうるのか…？
いや、それが起こりうる世界が、今自分が生きている、まさにこの世界なのだ……
「今から壁内へと戻る。撤退するぞ」
「…わかった」
エルヴィンの言葉に、リヴァイは短くそう答えた。
そして、思わず小さく舌打ちする。
撤退…
壁内へ戻る…
その時、真っ先にAの脳裏に浮かんできたのは、…エレン、だった。
もし、壁が壊されたとしたならば、…今現在、まさに彼らが交戦しているはず……
「……エレン…」
不安が口をつき、無意識に言葉がこぼれていた。
Aの口から呟かれた言葉に、リヴァイが一瞬だけ反応した。
Aに視線を送ると、胸の前のマントをギュッと掴んだまま、一点を見つめ、思い詰めたような表情をしている。
そんなAの様子を見て、リヴァイは眉間に皺を寄せた。
―…あのガキのことを心配しているのか…
当然と言えば、当然のことだ。
もし、壁が破られたなら、アイツら104期生も戦場に駆り出されていることだろう。
そう思いながらも、自分の女が他の男のことで頭がいっぱいになっているのは……、
―…いい気はしねぇな
そこまで思って、初めて気づく。
……嫉妬？…あんなクソガキにか？
馬鹿馬鹿しい…
どこか苛立ちに似たような感情を、一瞬でも心の片隅に覚え、自分はそんなに小さな人間だったのかと、リヴァイは自分の中でわずかに自嘲した。
「…おい、A。なにボケっとしてやがる。…急ぐぞ」
「…っ…！はい！！」
リヴァイがそう声をかけると、Aはハッとしたようにして返事を返す。
不安な視線を送ってくるAの頭を、リヴァイはすれ違いざまにクシャリと髪を掴むようにして優しく撫でた。
Aは奥歯をギュッと噛みしめると、リヴァイの後に続いて、馬のいる場所へと向かう為立体機動に移った。
・
第56回壁外調査14 ―現実 →←第56回壁外調査12 ―5年前と同じ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1065人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「進撃の巨人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
