馬車の中 ページ37
・
建物から外に出ると、空から差す太陽の眩しさに一瞬目が眩み、リヴァイは何度か瞬きをした。
壁外調査から戻ってきて以来、Aの側につきっきりで、外に全く出ていなかったことを今更ながらに認識する。
見上げれば、憎い程に澄み渡った青い空が広がっていた。
雲は白く、鳥はいつものように自由な空を穏やかに渡ってゆく。
いつもと変わらない景色。
だが、リヴァイにとっては既に世界の何もかもが今までとは違っていた。
痛めた足に一瞬ズキリと激痛が走り、わずかに顔をしかめる。
止まっていた馬車の中には、既にエルヴィンが乗り込んでいた。
視線を合わせないままに、リヴァイはその向かいに腰を降ろした。
「……リヴァイ…」
「…………」
視線を合わさずとも、その声色と空気でエルヴィンが既に全てを知っていることを理解した。
それに、兵団の長であるこの男が、”その情報”を知らないはずもない。
「……何も、言わなくていい」
「…………そうだな。…わかった」
一瞬の間を置いて、エルヴィンはそう答えた。
何を言ったところで、現実は変わりはしない。
それに、リヴァイがそれを望んでいないことを、エルヴィンは理解していた。
エルヴィンの合図で、馬車がゆっくりと動き始める。
言葉通り、二人はそれ以上言葉は交わさなかった。
馬車が進み、ただ窓の外の景色が流れる。
だが、この風景が、確実にこれから変わる。
その確信があった。
もちろん作戦通りに事が進めば一番いい。
だが、相手は最大限の警戒をしているだろう。
それもこれも、アルミンの推論が当たっていれば、の話ではあるが…。
現状、何もしないよりはいい。
何かをしなければ、何も変わらない。
調査兵団は終わり、人類も滅亡する。
それを打破するために、今度こそ女型を捕獲し、その正体を暴く。
―――自分には、今、すべきことがある
そのことが、今のリヴァイにとってはありがたかった。
今度こそ、俺が必ず…――――
その時、突然の雷鳴が壁内で轟きわたった。
「……現れたな」
エルヴィンが静かにそう言って、視線を強める。
レンガ造りの建物が立ち並ぶ向こう側。
二人の視線の先には、金髪の一体の巨人の姿があった。
それは巨大樹の森で遭遇した、まさしくあの女型の巨人の姿だった。
知らぬ間に握りしめた拳が、ギリと音を立てた。
「…あぁ。…どうやら、まだチャンスはあるみてぇだな…」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1870人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「進撃の巨人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
berumanami0220(プロフ) - こんなに長く書き切ってくれてありがとうございました！すごく素敵なお話でした (4月6日 19時) (
レス) id: c0ff4540c3 (このIDを非表示/違反報告)
まやや - 泣いちゃった。。ジャンの変装シーンってどういうことですか？この長編を描き切るなんて素晴らしいです！！ (2020年10月24日 16時) (レス) id: e7ac9c5abf (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - コットンキャンディーさん» コメントありがとうございます！こんなに長い小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。嬉しいコメントまで、ありがたいばかりです(泣)だいぶ前に書いた作品ではありますが、こうして読んでくださることに心より感謝です！ありがとうございました(T-T) (2020年5月8日 0時) (レス) id: d224b33113 (このIDを非表示/違反報告)
コットンキャンディー(プロフ) - こんにちは。今更ながら読ませていただきました！この章では泣いてしまいました本当に。こんな小説を書けるなんてすごいです！この小説を書いて下さりありがとうございました！とても面白かったです！ (2020年5月6日 12時) (レス) id: 5295ad42ac (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - ゆらさん» コメントありがとうございます！そんな風に泣いていただけるなんて…本当にありがとうございます！最後の終わり方はいろいろと悩んだので、そう言っていただけると嬉しいです(泣)この作品を読んでいただき本当にありがとうございました！ (2019年9月25日 0時) (レス) id: d224b33113 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
