風の行方 ページ28
・
『兵長は、平気だったんですか…！？』
エレンの言葉が脳裏に甦る。
平気なわけねぇだろ
クソガキ…
絡ませた指先にキュッと力を込めた。
胸の痛みを押し隠すかのように。
Aの苦しそうな表情
消え入りそうな声
兵団服を染めた血の色
そして、あの時交わしたキスの感触…
全て鮮明に覚えている
平気なわけじゃない
何もかも手放して、お前との幸せを考えることができたなら
人類の行く末など、どうだっていい
そんな選択ができたなら
そうすれば、お前は…――――
拭いきれない葛藤を、胸の奥底に封じ込める。
後悔はしない
そんな偉そうなことを口にしたくせに
ふとした拍子に心の中がざわめき、不安が押し寄せてくる
抗うことのできない闇は深く
気を抜けば、飲み込まれてしまいそうな程に
振り返るわけにはいかない
見失うわけにはいかない
自分の進むべき道を…
静かに眠っているAを見つめる。
綺麗な寝顔は、いつもと変わらない。
今にもその瞳が、ふっと優しく開きそうなくらいに…。
ポケットの中の懐中時計をチラリと確認する。
予定の時刻までには、もう少し時間があった。
できることなら、自分がここを出発する前に目を覚まして欲しかった。
この先、事態はどうなるかわからない
相手が罠にかかったとして、作戦通りそう上手く捕獲できるとは正直思えなかった
戦闘になった場合、この市街地が戦場と化す
犠牲者の数は計り知れない
自分がここに無事に帰って来れるという保証もない
この怪我さえなければ……
痛む左足に視線を落としながらそこまで考えて、リヴァイはふと思考を止めた。
いや
こんな弱気なこと言ってたら、Aに怒られちまうな
――必ずここに帰ってくる
必ず、お前の元に
だから、どうか…――――
誓うように強く手を握ったその時、開かれた窓の隙間から突然突風のような強い風が舞い込んだ。
白いカーテンが大きく揺れ、リヴァイとAの髪をふわりと巻き上げてゆく。
リヴァイがわずかに目を細めたその瞬間、
――――ごめんね…リヴァイ…
スローモーションのようにカーテンがゆっくりと風に舞った。
一瞬、時が止まったように思えた。
吹き込んだ優しい風に包まれながら、かすかにAの声が聞こえたような気がした。
「………A…？」
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berumanami0220(プロフ) - こんなに長く書き切ってくれてありがとうございました！すごく素敵なお話でした (4月6日 19時) (
レス) id: c0ff4540c3 (このIDを非表示/違反報告)
まやや - 泣いちゃった。。ジャンの変装シーンってどういうことですか？この長編を描き切るなんて素晴らしいです！！ (2020年10月24日 16時) (レス) id: e7ac9c5abf (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - コットンキャンディーさん» コメントありがとうございます！こんなに長い小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。嬉しいコメントまで、ありがたいばかりです(泣)だいぶ前に書いた作品ではありますが、こうして読んでくださることに心より感謝です！ありがとうございました(T-T) (2020年5月8日 0時) (レス) id: d224b33113 (このIDを非表示/違反報告)
コットンキャンディー(プロフ) - こんにちは。今更ながら読ませていただきました！この章では泣いてしまいました本当に。こんな小説を書けるなんてすごいです！この小説を書いて下さりありがとうございました！とても面白かったです！ (2020年5月6日 12時) (レス) id: 5295ad42ac (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - ゆらさん» コメントありがとうございます！そんな風に泣いていただけるなんて…本当にありがとうございます！最後の終わり方はいろいろと悩んだので、そう言っていただけると嬉しいです(泣)この作品を読んでいただき本当にありがとうございました！ (2019年9月25日 0時) (レス) id: d224b33113 (このIDを非表示/違反報告)
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