睨まないでよ【シルバー】 (ページ28)

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刺青ページ28

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『ホントに記憶に古いんですけどね。ぼやーっとしていたものが、貴方の顔を見てハッキリしたんです。自分が、誘拐された日のことが。』

ルークはぴくっと反応した。分かりやすい反応ではなかったが、Aとしては十分な収穫だ。本気で驚いている彼を見たことがある人間など、そうそういないだろう。何だか優越感。
話を戻すと、Aの誘拐された日についただが、本当に彼のせいで……彼のお陰で思い出せたと言っても過言ではない。

兄にいくら話を訊いても、シルバーにいくら当時の状況を訊いても、全く思い出せなかったのに。結局人間、楽しかったことなんかより怖かったことの方が印象強く残る。呪われてるだ悪魔だ散々言われてきたが、結局私も人間だったのだ。

『５歳の誕生日の前日です。知らない男の人に引っ張っていかれました。その時の誘拐犯の目が、貴方の目とよく似ていたものですから。』

「やっと見つけた」そんな目で。誘拐してきた彼もまた、獲物を見つけた時の狩人の目をしていた。その悦に浸る顔が、幼いながらに怖いと感じた。

『嫌いなんじゃなくて、苦手なんです。』

すごく、すっごーっく苦手。ルークの顔を見るのが怖かった。自分が犯罪者と同じ扱いをされて怒っているだろうか。幼子のくだらない理由で飽きれただろうか。それでも、Aは怖かった。
フラッシュバック寸前で、両腕を擦って身震いをした。

『……でも、この腕にある【アジーム】の印のお陰で、兄さんを助けることが出来ました。』

この学園でコレの存在を知ってるのは、兄とジャミル。後は茨の谷の彼らだけだ。

アジーム家の長男長女に彫られる刺青(タトゥー)。５歳時点で既にあった。きっと兄さんが彫られたときに同時に彫られたのだろう。【アジームの証】という建前だが、刺客(外)からすれば獲物の印だ。
長女である私にある理由はきっと、兄さんの代わりに間違えられる(誘拐される)かもしれないからだ。アジームのみならず、結局どこへいっても必要なのは【長男(後継ぎ)】である。それが現実となっては些か、縁起と胸糞が悪いものである。
しかし、この刺青といい私の訛りと言い、やっぱり親父殿は私がアジームだったって知ってたんじゃないのか。ぐるぐると脳内で要らないことばかりが浮かぶ。

ルークの顔色を窺うように覗き込むと、いつも通りの笑顔で「そろそろお暇するよ」と言った。いつもより優しさを感じたのは、気のせいだろうか。