睨まないでよ【シルバー】 (ページ24)

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狂気の元は求美ページ24

Aside

今日は空気が軽い。テストが終わったからだろうか。糸が緩んだみたいに明るくなった。きっとテストの結果が楽しみで仕方ないんだろうとAは笑っていた。そうでもなければ、モストロラウンジ(こんなところ)なんか来ないだろう。
いつも以上に賑わいを見せるラウンジで、あっちこっち忙しなく働いていた。フロイドも今日は調子のいい日で、鼻歌まで歌っていた。

「A、１０番行ったか？」

『いえ、先輩お願いします。』

「アジームさん、７番お願いします。」

『はぁい、７番行きます。』

「……あの、アジームさん、９番席も……」

『え、ごめん、他当たってくんない？』

効率ってものを知らないのか？いくら一年生と云えど、そんな頭の悪いことはしないはずだ。新入り君だろうか。初々しさと心許なさが抜けていない。どこかよそよそしい。え、あ、…と口籠る彼に『ご指名だったの？』と訊くと、こくんと頷いてこそっと９番席を指さした。

「あの、”アジームさんを呼んで欲しい”って……」

『オッケー、ありがとう。代わりに７番席頼んだ。』

「す、すいません……」

『キミは悪くないよ。大丈夫。』

私は髪を掻き上げて結い直した。まさか懲りずにここに来るだなんて。本当にどうかしてる。一生自分の寮で美を磨いてればいいのに。

半目気味に睨みつけながら、９番席に歩み寄った。ニヤニヤしながらこちらに手を振る彼の神経を疑う。サラサラの金髪が照明の光とマッチして、流石はポムフィオーレ寮と感心した。変人と云えど、その狂気の元は求美の賜物であった。

私はトレーを両手で抱え、肩をすくめて溜息を吐いた。

『懲りましょうや』

「ノン！狩人たるもの一度目を付けた獲物は気が済むまで追い回すよ。」

『ドヤ顔で言うことですか。』

ルーク・ハント。どうして１日に２度も会わなければならないのか。そう思ったが業務中の為、さっきとは打って変わった笑顔を張り付けて、媚びるような甘い声で『ご注文承ります』と急かした。豹変した私の態度に目もくれず、彼はニコニコと笑っていた。思ったよりしっかり注文されて驚いた。

何が目的なのか。アズールとの取引だとは思い難い。彼にアズールと契約してまで欲しいものなどないであろう。彼は、欲しいものは自力で何としてでも手に入れるタイプだ。

メインストリートであったことを忘れたとは言わせない。首を突っ込むなと言ったはずだ。これは痴漢行為として訴えてもいいのだろうか。