溺れないでよ【シルバー】 (ページ9)

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わすれものページ9

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「イルカちゃん！……おい、A！！」

視界がチカチカと真っ白な光に覆われる。冷たい海の中で肩を抱かれ身体を揺さぶられた。彼らの焦るような声が耳を劈くも、言葉を聞き取る前に右から左へ流れていった。

「Aさん。僕の声が聞こえますか？」

聞こえる、聞こえるよジェイド。そう言って安心させてあげたいのに声を出すことはおろか、酸素を上手く取り込むことさえ不可能な状態にあった。

魔法薬の期限はまだ切れないはずなのに、どうして。

呼吸器に異常があるのに水中呼吸の魔法薬を使ったから？それとも単に疲れが溜まってただけ？どっちにせよAに残された時間は少なかった。遠のく意識の中でさっきまで敵視し合っていた彼らが、この身体を心配しているのを見てふと安心した。

「……Aさん、？」

Aはジェイドの手を取り、震える指で文字を描いた。ふたつの手袋越しに触れた彼の手も震えているような気がした。なんて、死にかけが何を言ってるんだって話だけど。

もう駄目かもしれない。酸欠でヒリヒリと肌が痺れてきた。視界がぐらりと回り、耳も何も聞こえなくなった。「アズールには内緒にして」それだけ書き切ってAは意識を手放した。

────大至急アズールに連絡を。

そう言ったジェイドの横顔は変に落ち着き払っていた。Aへ向けた瞳は冷たく、その眉は少し歪みを持っている。冷静というよりは怒りに近い表情だ。

「ジェイド……」

「魔法薬の効果ももう少しで切れるでしょう。Aさんは僕が。フロイドはアズールに」

一体Aに何と言われたのか。片割れに問いただしたいことが山ほどあった。しかし、自分たちにはそんなに悠長にしている時間は残されていなかった。
フロイドは尾びれをしならせ寮へ急いだ。

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「……なあ、Aはどこだ？」

デュースの声がシンとした鏡の間に染み渡った。海に置き去りにしてしまったかもしれない。監督生は思わず鏡へ飛び込もうとした。しかしエースがそれを引き留める。

「何考えてんだよ！魔法薬切れてんのわかんない！？」

「でも、Aちゃん置いてくるなんて！」

「Aならどうにかなるっしょ。アイツ強ぇーし」

「……でも、今日のAは様子がおかしかっただろ」

ジャックはらしくもなく顔を青くしてそう言った。野性の勘が悪い知らせを告げている。もし、自分があの時止めていれば……なんて。今更遅いのに。