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溺れないでよ ページ50




「お前が眠っていた間にハーツラビュル寮とオクタヴィネル寮、そしてディアソムニア寮が揉めたんだ」

『ディ、ディアソムニア寮……!?』

「お前に魔法薬を盛ったことが問題になっている」

『ちょ、ちょっと待ってくださいよ!』

彼らから渡された魔法薬は監督生たちだって飲んだし、Aも自分の意思で飲んだ。それがアズールやジェイド、フロイドたちだけの責任と言えるだろうか。Aは擁護しようとしたが、先に口を開かれた。

「あの魔法薬だけじゃない。お前は精神に直接影響する魔法薬を飲まされている」

『そ、そんなもの飲む訳がないじゃないですか!』

「いや、お前が気づいていないだけだ。リーチ弟が自白している」

空いた口が塞がらなかった。どうして彼らがそんなことをしたのか分からない。しかし思い返してみれば、あの時もあの時もと心当たりがある。

「判断力が落ちる魔法薬だ。つまりそれのせいで仔犬は水中呼吸の魔法薬を飲んでしまった。本来のお前なら魔法薬のかけ算が危険なことも、自分の体に呼吸系の魔法薬が危険なことも、ちゃんと分かるはずだからな」

彼はまた珈琲に口をつけた。Aも同じように一口飲む。段々と興奮が鎮静していくような感じがして、落ち着きを取り戻していった。

「そしてハーツラビュル寮はローズハート筆頭に、ディアソムニア寮からはヴァンルージュたちが、学園にお前の転寮を求めている」

『なっ、え、はっ!?』

声を出した拍子に珈琲が鼻に逆流して痛い。本当に自分が眠っていた二三日で大事になりすぎている。

「喧しかったから全員面会謝絶という名目で追い返した」

『かっけぇ……』

「追い返しても帰らない仔犬もいるが……」

そう言った後、彼は暫く静かになった。「誰かがまだ帰っていないんですか?」と訊くと、う〜んと唸るような返事をした。

「……俺の仔犬が元気なことは確認できたから俺はもう帰る。だから今から誰かがここへ来ても、俺は知らないし気づかない」

『先生?あの……』

彼は二人分のマグカップを綺麗に片付け、じゃあなと言って早々に部屋を出ていった。がらんとした暗い部屋に一人、Aがぽかんとしていると、誰かが部屋に近づいてくる気配がした。その足取りはやや焦っている。Aは枕元のランプをかざして、扉を照らした。いくらもがいても陸に上がれない、溺れるような息苦しさ。緊張に似た期待。



「A……!」

涙で上擦るような情けない声が、私の名前を呼んだ。

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作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2021年7月21日 20時

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