【歌い手】惚、好、愛、結 team.B【大型コラボ】 (ページ30)

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彼は戦いの途中一度も私から離れなかった。
それはつまりほとんど動かずに襲ってきた敵に対して戦い続けた、ということ。

最後の1人が、残り少ない力を振り絞ってセンラさんに刀を振りかぶった。
センラさんはそれに一切動じることなく刀をその相手に向ける。

思わずギュッと目を瞑る。
耳を塞ぎたくなるような音と呻き声。
そんな時、倒れたその相手が発した声が私に届いた。

「…っ、お、まえ……うら、ぎるなよ……っ」

「……っ、」

その声を最後にピクリと動かなくなった。
そんな様子を見てからセンラさんは私に頭だけを向ける。

綺麗な彼の顔の至るところに見える赤だとか傷だとかを見て思わず唇を噛みしめる。
彼は肩で息をしたまま私に笑みを向ける。

その笑みはホッとしたような、けれど疲れ切っていて弱々しいものだった。
センラさんは顔を前に向け、私に背を向けた状態で座り込んだ。
流石に1人で相手をして疲労がピークなんだろう。
彼の首筋を滴る汗がなんとも美しい。

「……早く、こんな時代終わらんかなって思うんですよ」

私に背を向けたまま彼は話し始めた。
思わず手を止める。

「俺だって、罪のない人を殺したくないんです。けれど自分を守る為、大切な人を守る為にはこうするしかない」

「…そうですよね」

周りに転がる亡骸を見る。
悔しいけれど、見慣れてきてしまう。

ここ最近は戦が多い。
嫌でも目に入ってしまうのだ。その事実がなんとも悲しい。

「俺は、何故だか小さい頃から運動神経には恵まれていました。だからこうして戦にも強い。きっとこの国一番の強さを持っている」

私には何故センラさんがいきなりこんな話を始めたのかがわからなかった。
思わず手元にある、“それ”を握る。

じわ、と手汗が滲んだ。

「この国を倒すには、俺を倒すことが手っ取り早いんです。だから他の国は俺を狙う。きっとさっきの奴らもそうでしょう」

どうして穏やかな口調でそんなことが言えるのだろうか。
疲れの滲むその声。

そして、さっき私は見たのだ。
彼の利き腕に血が流れているのを。

「きっと、敵国にとっては今が一番狙い時でしょうね。なんせ俺はさっきの戦いで疲れているし利き腕もうまく使えない。弱っているから」

「………っ、」

やめて、お願いやめて。
それ以上何も言わないで。

腕が震えた。足が震えた。さっき倒れていった彼らの言葉がフラッシュバックした。
けれど握ったそれを離すことは出来なかった。
グッと、背を向けたままの彼にそれを振りかぶる。

「A、俺を殺すなら今がチャンスですよ」