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Aが部屋に駆け込んでから少し時間が経った。そろそろ気持ちが落ち着いた頃だろうか。
「A、部屋入ってもいいか?」
「来ないでください」
ドアをノックして声をかければ返ってきたのは拒絶の声。
「私、今うらたさんに見せられるような顔してないです。だから来ないでください」
「わかった。じゃあそのままでいいから俺の話聞いてくれる?」
その問いかけに返事はない。無言は肯定。そう捉えて、先程伝えられなかった言葉を口にする。
「努力しても認めてもらえないって辛いよな」
さっき、俺にはわからないって言ってたけどさ。
「努力不足なんじゃないかとか、むいてないんじゃないかとか考えちゃうよな」
俺だって最初から認められて人気だったわけじゃない。
「Aはすごく頑張ってる。自分の才能を過信せずに、努力して実力を磨いてること俺はちゃんと知ってるよ」
認めてもらえないことに対する辛さはわかってるつもりだから。
「俺だけじゃない。他にもちゃんとAのこと認めてくれている人はいる。今は少し、悪意が目立ってしまってるだけ」
どれだけ多くの賞賛が並んでも、たったひとつつの悪意が目立ってしまう。悪意は目につきやすいから。
「......私を認めてくれる人」
「そう。俺以外にもちゃんといるだろ」
ドア越しに聴こえる微かな声にしっかりと返事を返す。数秒の沈黙。もしかしたら数分だったかもしれない。それくらいの沈黙の後にゆっくりと彼女の部屋のドアが開いて、俯いたままのAが出てきた。
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