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もう何も聞こえない。もう何も分からない。
辺り一面真っ白で、ただただ寒く、ただただ広い。
自分の形すらわからなくなるこの広さは宇宙に相当する。私は何でどこへ向かうのか。
蛇…そうだ、蛇と同じ場所が良い。どんなところに行くんだろう。人が死ねば極楽浄土、人ですらなく、神から離れた私たちに魂はあるのだろうか。人はどうして神に縋るのだろうか。
縋る神のいない私たちは、どうすればいいのだろうか。
どこへ歩いて行こう。どこへ向かおう。
寒さが身に刺さるような、恐ろしく凍える空気。吐く息がどんどん凍てついていく。寒くて寒くてたまらない。空腹が襲ってきて、ぽっかり腹に穴が開いていることに気づいた。
蛇を探さなきゃ。蛇もきっと寒いはずだ。お腹空いてないかな、何か食べるものを…。
「インマヌエル」
「…」
「おい無視するなインマヌエル」
「人違いです」
「人じゃないだろうお互いに」
「うっさい」
白い神父の服に身を包んだ父の姿。Aは顔をこれでもかと歪めてやった。その時あやふやになっていた自分の姿がはっきりと輪郭を描いた。ぽっかり空いた穴も塞がっていて、ドロドロに溶けていた顔も元通りだった。
「少し話そうじゃないか」
「話すことなんかないもん」
「まあそう言わずに」
ドミヌスが腕を引く。強引な力に抗おうと思ったが、それも面倒なので従うことにした。決して以前のように父だから従うのではなく。
「お前に殺されるとは思わなかった」
「絶対殺してやるって思ったからね」
「どうだ、友達は。元気か」
「元気だよ。私はすっからかんだけど」
「ははは!私もだよ」
「うっせくたばれ」
かつて出会ったような気色悪さはなく、父はどこかさっぱりしていた。異質な執着を見せることはなく、Aはそれも訝しんでいた。
Aの表情を見て、ドミヌスは慈愛に満ちた目で笑いかけた。
「あっははは。まだ、仲直りは出来ないかね」
「する気もないね!磔なんかにしやがって!絶対許さない!!!」
「あっはっはっは!!!」
「笑うなばーか!!!バーカ!!!このうすらとんかち!!!!」
「いやぁ、可愛いなぁ」
ドミヌスがぎゅっと抱きしめる。驚いて体が固まる。
「我が子とはこんなに可愛いものか。こんなにも愛おしい」
「ッ…!…っっっ…!?!?!?」
「驚きすぎじゃないかね」
「嫌だァ…」
「嫌かぁ」
ドミヌスが離れる。どこか困った顔をして。寂し気に肌を撫でて。
「お前はもう、私のものではなくなったんだね」
そんな可哀想な顔をしないでほしい。
Aはふんと鼻を鳴らしてドミヌスの手を握った。
「右手だけ貸してやる。そのほかはやらん」
「…優しいね。相変わらず」

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ニック(プロフ) - とても良い作品でした。最終回なのが悲しいです。 (2023年4月25日 17時) (レス) id: 929d0bcae2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:メルト | 作成日時:2022年8月3日 17時

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