ダリアの花束を贈る。【KZ】

誓う夜。 ページ24

◇.



満月の夜であった。

上杉が住むのは都内であるため、夜であってもビルや観光地の灯す鮮やかな人工灯が街を色付けるせいか、星のあかりはほぼ見えない。



部屋の窓から見えるのは、濃紺の何もない画用紙のような空と端に佇む大きな満月だけだった。



いつもなら自然の背景の模様の如く孤立しているはずの月。
それが今日に至っては少し違っている。


窓の4分の1程度を占めて異様な情調を放っていたのだ。



大きくなった月は普段より色に赤味が加わっている。
その光は月の周りを纏い、ぼぅっ…と淡く夜空を照らしていた。



「今日はスーパームーンだね。」

小塚は床に下ろしていた腰を起こし、ゆっくりと窓際に近づくと、窓の縁に手を置く。


後ろでは小塚用に出したグラスが中の氷とぶつかり、カラン…と軽快な音を奏でた。



「こんなに大きく窓から見えるって、いいね。
僕の部屋の窓からは見えないから羨ましい。」




「…あぁ。」


今、この部屋には小塚と黒木が来ている。
約1時間前に、上杉が2人に電話を掛けて呼び出したのだ。



大したものもない質素な部屋を包む音は何もない。
他の部屋から出る生活感を映し出す音も、人の気配さえも。

それとは対照的に、上杉の心の中は荒れ狂った海のように激しく波打っていた。



一度に沢山押し寄せる感情は考えるよりも先に乱れ、脳内を支配し渦巻いている。



「…そろそろ話してくれないか。」


黒木の言葉に、ふと我に返り時計を見上げる。二人が来てから優に30分は経過していた。


ただでさえ学校の課題に追われ時間は惜しいというのに、2人は上杉の心が落ち着き、話せる状態になるまで何も言わずに待つまでいてくれたのだ。



それにも気がつかない上杉の心は、それほどまでにもう追い詰められている。


「悪い。…ちゃんと話す。」




部屋の真ん中に置いてある円形の机を囲み、目の前のお茶を一口含み喉を潤した。


お茶を注いでから時間が経っていたため、グラスには水滴が付き、机に伝った丸型の水滴は電気を反射して小さく輝いている。



「ついさっき、砂原から連絡があった。」



小さく動かした唇からは、その一言と多量の吐息を含んでいた。虫の息のようにか細く溢れたその一言に、小塚も黒木も目を剥く。


黒木の手の中のグラスはゆっくりと地面へ吸い込まれていった。




◇.

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