真選組女隊士[銀魂] 2

56.逃げたい ページ6

･




｢Aー酢昆布買えヨー｣


｢きちんとオネダリしたらね｣


｢おねがぁいアル｣


｢は、可愛いかよ、好き。

はい、買っておいで｣



朝起きて、速攻ねだられる私。


500円をあげれば

ひゃっほーいっと足早に万事屋を出ていく。



｢あんまりうちの子甘やかさないでくんない？

癖になるでしょーが｣


｢ほら、あるじゃん？

久しぶりに会ったじいちゃんばあちゃんが小遣いくれた！みたいなそんな感じですよ｣



ねー、と定春くんの首元を撫でる。


しっぽをパタパタさせながら

そんな私の手を食べる定春くん。


なんて愛らしいんだろう。


そんな中、万事屋にかかってきた1本の電話。


音に驚いてから、少し、身構えた。



｢はぁい、万事屋銀ちゃんですー。

ただいまー、留守にしてるんでぇ、切れ、じゃーな｣



鼻くそをほじりながらそういう旦那。


面白い人だなーと思いながら内容を聞く。


思った通り、真選組だ。


電話を切ってから、鼻くそををそこら辺に飛ばし

よっこらよっこらとソファーに座る旦那。


そんな旦那の向かい側に座って、言葉を待った。



｢･･･今から来るってよ｣


｢お邪魔しました｣



そそくさと窓から出ようとする私の腕を、旦那が引いた。


ちょちょちょちょちょ、と声をかけながら。



｢ほんとに逃げる気か｣


｢もう戻りたくないんです。

私の居場所なんて、とっくに無いですから｣



逃げているだけなのは充分わかってた。


でも、辞表も出してきたし。

隊服も脱いできた。


刀を返せと言われるのは困るし。


連れ戻されて部屋に籠らされるのも、もう嫌なんだ。



｢飯くらい食ってけよ｣


｢時間ないんで｣


｢痩せただろ、お前｣


｢そりゃほとんど食ってませんでしたからね！｣



それじゃ！と、旦那の腕から腕を抜いた。


旦那の、心配してくれている瞳に

なんだかまた涙が出そうになった。


万事屋にいる、と言っていた素振りはなかった。


確認しに来るとでも言われたんだろう。


なんで逃げてるんだと聞かれたら

私はどう答えればいいだろう。


ただ、戻りたくないんだ。


私の居場所のない屯所には。


せめて、近藤さんには、土方さんには、総悟には、

私はやっていないと、最後まで信じていて欲しかった。


いつも話さない終兄さんの表情は読めなかったけれど

彼も私を庇うことは無かった。


連れ戻されるくらいなら、逃げたいんだ。私は。





･

57.腹が立つ→←55.見慣れたもの

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す