6.鬼 ページ6
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母親も父親も、見送りすらしなかった。
すだれの中に女を乗せて、男2人がそれを持ち上げる。
俺達はその横を歩くだけ。
「真選組さんは、刀はいつからなさってるんですか?」
静かなのが嫌いなのか、気まずくなったのか。
それとも気まぐれか。
何でか分からねぇが話しかけてきたからには答えるしかねぇ。
「さぁ。もうずっと昔からやってるもんでね」
「素敵ですね。噂はたくさん聞きますよ。
遠い所から、上京してきたんですよね。たくさんの仲間と一緒に」
素敵ですね、と笑う。
この女、ほんとにずっと笑ってやがる。
「そんな素敵なもんじゃねぇですぜぃ。上司と部下の関係には溝しかねぇんでさぁ」
「誰のせいだ」
「…鬼の副長、土方十四郎。あなたのことでしょう?」
総悟と言い合いになりそうになったところで、そんな問いかけが聞こえてきた。
そうだが。と答えると、また、ふふ、と笑う。
「噂通りですね」
「ほう、ちなみに、その噂とやれ詳しくお願いしまさぁ」
「そうですね。目つきが悪くてずっと不機嫌だとか、
仕事外でも鬼のようだとか…とても色男だとか」
そう言って、ふふふ、とまた笑う。
9割は悪口だな。
まぁ、俺の評判なんてそんなもんだろう。
大して気にもならねぇな。
「でも、嘘が多いんですね」
「ほう、それはなんでそう思ったんですか?」
近藤さんまで話に入ってきて、
俺一人、なんだか辱めを受けているような気になる。
「全然、不機嫌じゃないじゃないですか、さっきも、心配してくれましたし。
何より、ちっとも怖くないんですもの」
よっぽど雷の方が怖いわ、とくすくす笑う。
初対面で怖くないと言われたのは、初めてかもしれない。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時