ー優越感 ページ44
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それは唐突に起きた。
バタバタと騒がしくなった屯所内。
足音と声が聞いたことのないくらいあちこちから聞こえた。
私はいつものように部屋にいて、
十四郎さんに頼まれた署名が気をしていた。
ただ、紙に彼の名前を書いていくだけ。
廊下の騒がしさに心配の気持ちが勝っていた時、
急に扉が開いて、拉致されました。
「いい女があんなところに居やがったな。
お前さん、何者だ?」
「何者、と言われましても、
真選組に相談に行っていただけなんですが」
「真選組鬼の副長直々にか?
おかしな話だな」
あの部屋の主まで知っているとなると
私もどういえばいいのか返答に困る。
どうしようかと悩んでいると
唐突に頬に痛みが走った。
久しぶりに体のどこかに傷がついた。
最初はビンタでもされたのかと思ったけれど
何かが滴る感覚に頬を切られたんだと理解した。
「表情一つ変えねぇか」
「女性の顔に傷をつけるなんて」
「減らず口まで聞けるとは肝が据わってやがる。
どうだ、俺の女になるってんなら助けてやらんでもないぞ」
そう言った中年の男性は
土方さんに勝る所なんて一つもない。
それなのになぜ私が彼のそばを離れなければならないのか。
私が心底呆れた表情をして老いれば
その人はまた短刀を大きく振り上げた。
「おい」
どすの利いた、低い声がその場に響いた。
いや、その言い方だと、声は遠くにいるように聞こえるけれど
声の持ち主は、すでにすぐそばにいた。
「誰の女に刃物向けてやがる」
今までにないくらいに
怒ったオーラを醸し出している十四郎さん。
私に振り下ろされた短刀の刃先を
思い切り掴んでいるのがわかる。
表情は見えないけれど、
雰囲気と口調だけで、どれだけ怒っているのか分かった。
焦るその男と、その仲間。
しかし、その場にはいつの間にか
真選組隊士が多くいて、あっという間に敵は倒れてしまった。
「思ったより早かったですね」
懐からハンカチを取り出し
十四郎さんの手に巻きながらそう言った。
「お前はもっと抵抗することを覚えろ」
「怒ってます?」
「かなりな」
怒ってないと意地でも言うかと思ったのに。
私の頬に触れて、辛そうにする。
「鬼の副長の将来の嫁が、こんなことでひるんだりしませんよ」
私の言葉に、心強いな、と笑う彼はまだ悲しそう。
こんな時でも私は彼に愛されているんだと優越感を感じてる。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時