ー十四郎 ページ42
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「あの!」
そう声をかけたのはたった5分ほど前のことだった。
寝る前に書類仕事をする土方さん。
私は眠る準備をして土方さんの仕事を待つ。
ここに来てから、たまに先に寝てしまうけど
こうやって、眠るを待つのは日課だった。
あまり話しかけるようなことはしなかったけれど
今日は、勇気を出して話しかけてみた。
「どうした?」
タバコをくわえながら少しこちらに顔を向ける土方さん。
思っていたより忙しそうで、どうしようかと迷う。
「・・・やっぱり、後で大丈夫」
眠る前、土方さんは疲れですぐ寝てしまうから
あまり話す時間はないけれど、その時でもいいか。
急用でもないし。
と、また静かに眠る準備を続けようとした。
「言いたいことがあるならちゃんと言え」
いつの間にか体ごとこっちを向けていた土方さん。
その瞳は真剣で、なんだか少し心配してくれているみたい。
私は、少し唇を噛んで、意を決して口を開いた。
「な、名前で、呼びたい、な、って」
言うだけ言って、顔に熱が集中するのがわかる。
恥ずかしい。
別にそう呼んだ訳でもないのに。
オネダリをしているようで、
しかもオネダリがそれだけのことで、恥ずかしい。
「A、顔上げろ」
立ち上がって近づいてきた土方さんがそう言う。
私は、自分の顔が赤いのなんて分かりきっているから
余計に顔があげずらい。
下を向いたままでいると
そっと両頬を包まれて、半ば無理やり顔をあげさせられた。
「真っ赤じゃねぇか」
そう笑う土方さんにさらに顔が熱くなる。
なんて恥ずかしいんだ。
「んで?俺をなんて呼ぶって?」
意地悪く笑う土方さん。
ずるい。
こんな時にまでそんなに格好いい笑顔。
顔を伏せたくてもできない状況が
既に完全に彼のペースなのに、私は気づいてる。
「と、」
そう言って、ん?とまた聞き返される。
なんでそんなに楽しそうに・・・。
こっちはこんなに恥ずかしいのに。
顔を見られたくない一心で
無理やり土方さんに抱きついた。
驚いた様子を見せる土方さんに、
「十四郎、さん」
そう呟いた。
それから、大きくため息をついた土方さんは
可愛いことしてんじゃねぇよ、と私の頭を撫でる。
「・・・十四郎さん」
「なんだ?」
「・・・ふふ、なんだか特別みたい」
「もう少し待ってろ。もう終わるから」
そう言って十四郎さんは仕事に戻って行った。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時