38.愛しています ページ38
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「土方さん!」
いつもよりもずっと軽くなった体でその人のもとへ駆けて行った。
煙草をくわえたその人は、私の声に反応する。
たった数日。
それほど会話もしていない、たった数日。
私と彼は、互いのことをよく知った間柄でもない。
ただの私の一目ぼれ。
また出会えた彼は、昔よりも格好良くて、素敵だった。
何人もの人を殺めてきたんだろうその手は、
なぜか私にはとって持強くやさしいものに見えた。
私の、赤くなったんであろう頬を撫でて、悲しそうな表情を見せる。
そんな顔、しなくていいのに。
「痛いか」
その言葉に、ふるふると首を横に振った。
痛いけれど、今はそんなことよりも、この人のそばに来れたことが嬉しい。
この人に手が、頬に触れているのが嬉しい。
「すぐ冷やすぞ」
「ふふ、そんなに心配しなくていいですよ」
「女の顔たたくたぁ、とんだ男だな」
「そんな男だったんですから。
もう、私とは関係のない場所です。行きましょう」
連れて行ってください。少し悪い顔をすれば
土方さんは少し体を固めて、私の手を取って歩き出す。
何年も閉じ込められてきた家にさよならをした。
少し足早な土方さんに必死についていく。
「…お前は、これで幸せになれるか。
この選択に、後悔しねぇのか」
「…人間の選択に後悔はつきものです。
でも私は、この選択に、後悔する気はありません。
私のこと、捨てないでくださいね」
「捨てたらどうすんだ」
「酷いこと聞きますね。
…そうだな、万屋さんでも頼りましょうか」
私の言葉にはっと笑う土方さん。
そりゃ、一生離せねぇや。
その言葉に、顔が赤くなった。
一生離さないでください。
土方さん、好きです土方さん。
あの時からずっと、恋焦がれてました。
愛しています。
いつか、きちんと声に出して言いたい。
今はまだ少し恥ずかしいけれど、私がどれほどあなたを愛しているか。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時