36.勘当 ページ37
・A・
バチンっ、と頬に痛みが走った。
冷たく鋭い視線が私に向けられた。
頬も視線も痛いけれど
私はニコリともせず、対象を睨みつけた。
「なんのつもりだ」
「見たまんまです。盗賊に襲われて髪を切られました」
「笑って話せ、そういう決まりだろう」
「だから、もうここにいる必要は無いと判断しました。
それなら、ここの決まりに従う必要も無いはずです」
私の言葉に顔を真っ赤にした両親は
手元にあったジャスタウェイを私に投付ける。
意外と痛い。
可哀想に、音を立てて転がったジャスタウェイを見た。
・・・何も考えてなさそう。
「・・・出ていけ。早く出ていけ。
お前に与えたもの全て置いて、二度と顔を見せるな」
笑っていた。
ずっと、ずっと、父も母も。
この家はたしかに裕福で
地位があり、名声もあり、遺伝子もいい。
けれど、人として欠落しているんだ。
とっくに気づいていたその問題とやっと向き合えた。
やっと、この家から逃げ出せる。
父親のその言葉に何も言わずに踵を返した。
襖を閉じて、部屋に向かった。
長年身の回りを手伝ってくれたメイドロボも
私が抜け出した腹いせか、捨てられていた。
来ていた服を脱ぎ、土方さんが用意してくれた着物を着た。
あの日から数日、なんとかここに来れた。
土方さんには、外で待ってもらっていて、私は今すぐそこに行きたくて。
今まで着ていたような高くて動きずらい着物と違う、
控えめな赤色の、派手じゃないそれがとてもしっくりときた。
これが私の姿だと思えた。
さぁ、無理矢理だけれど問題は解決した。
肩より少し下まで短くなった髪を結って駆け足で外に向かった。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時