35.狡い ページ36
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こっちは真面目に聞いてるって言うのに
クスクスと笑うA。
「ふふ、そんな顔しないでください。
そんなこと心配してたのかなって思って」
どんな顔をしていたのか、自分では見当もつかないが
焦る様子も見せないAは、笑うのを止めて、微笑んだ。
「私が、もうあそこには戻りたくないって言ったらどうしてくれるんですか?」
その質問に、どこか目が回った。
ニヤリと微笑んだAから、幼さは消えて
どこか色艶のある笑いが映る。
この女は、またこうやって俺を惑わせる。
「・・・児童相談所にでも行くか」
「ひどい」
それをやっとの思いで交わすのに
目の前の女はまたクスクスと笑うだけ。
それから、その潤った唇を少し開いて
「そばに置いてくれるんですか?」
トーンを落とし、小さな声でそう聞いた。
屯所に女を置いていいものか、
懸念していた内容が、なぜか一気にどうでも良くなった。
そばに置いておきたい、いて欲しい。
俺が屯所を出てでも、所有したくなった。
俺を狂わせるのが上手いのか、男を狂わせるのが上手いのか。
どちらにせよ無意識の天然でこうなんだから何とかしねぇと。
「俺のもんになったらそう簡単に逃げらんねぇぞ」
「逃げる気なんてありませんよ。
まず、その大きな手が、逃がしてくれないでしょう?」
煽るような、挑むような、
その挑発的な視線から目を逸らした。
想定外に動く読めない女。
「家のこととかどうでもいいくらい、
土方さんとそういう関係になれたこと、嬉しいんですよ」
また、幼さの残る表情に戻って
少し恥ずかしそうに窓に顔を向けたA。
そういう可愛らしさも、狡い。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時