34.独占欲 ページ35
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Aを乗せたパトカーに戻れば
思った通り大人しく・・・ではなく、運転席の山崎と楽しそうに話していた。
大人しくしてはいた、大人しかっただろう。
だがそうじゃない。
・・・はぁ、これだから嫌なんだ。
惚れたと自覚した途端止められなくなる独占欲。
どろどろと思考を惑わせる。
この女は、ミツバに似ているけれど全然違う。
大人なのに子供なんだ。
どこか開き直ったような部分がある。
だから、俺をグラグラと不安定にさせて
お前ばかり見えるようにする。
こんな数日で、ここまで惚れ込んでいるとは。
自分でも驚く内容だ。
鬼の副長と呼ばれる俺は
人を殺し、誰も近寄れないように、
己を守れない人間を遠ざけるように生きてきた。
そんな俺が、こんなことになってるんだから、
鬼の副長が聞いて呆れる。
「お疲れ様です」
ニコリと笑ったAの頬を片手で掴んで
小さいのに柔らかみのある頬をムニッと包んだ。
誰もが綺麗だと思ったであろうその偽りの笑顔はまるでなくなって、
こいつから見た事のない表情が出来上がった。
「何するんですかっ」
「心の底から笑え。
今は無理でも、笑顔作んじゃねぇよ」
「作ってました?」
「無自覚かよ・・・」
これは、問題が多くありそうだ。
人を殺してきた俺に、私は神様を殺しました
なんて、ケロッと言えるこいつ。
「なぁ、あの屋敷に戻りたいと思うか」
俺ちょっと出ますね、と空気を読んだか出ていった山崎。
おかげで車内は二人きり。
俺の質問に、とぼけた顔をしたAは
次は偽りのない笑顔で、ふふふ、と笑った。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時