26.涙 ページ27
･土方十四郎･
俺の言葉に、女は少し動きを止めて表情を固くした。
しかしそれも一瞬のこと。
いつも通り妙な笑顔でまた筆を滑らせる。
靡いてないのか、と思い言葉を繋いだ。
｢その女は髪が短くて、病弱で
大切なものを最後まで大切にできる。
一途な女だ｣
頭に浮べるあいつの姿は
思ったよりも鮮明だった。
実際、もうあいつへの想いはとっくに断ち切っている。
その女をこの場に持ち出す俺ァ、どうしようもねぇ馬鹿だ。
先程の態度から何も響いていないのかと思ったら
Aの表情は、いつの間にか歪んでいた。
傷つけちまった、本能的に、そう思った。
｢そんなに、言わなくてもいいじゃないですか。
私なんかと全然違うこと、そんなに言わなくても･･･｣
｢お、い｣
初めて見た。
目の前の女の、不器用な涙。
いつも笑ってる、泣き方を忘れたそいつは
涙のこぼし方も、止め方も知らない。
歪んだ表情で必死に涙を拭う。
親に殴られても、殺気に囲まれても笑っていた女が
俺の言葉で、涙を流す。
｢見、ないでください。こんな顔、見ないでくださっ｣
なるほど。
泣いている姿は、美しくないとでも言われてきたんだろう。
だから、笑ってたんだ。
そいつの涙を拭おうと、思わず手が伸びた時
部屋の戸が開かれた。
伸びた手を引っ込めた時、
俺と同じように、Aは涙も、それを拭う手も止めた。
｢お嬢さんの捜索願いが届いてまさァ。
これを機に、少しは帰りやすくなったんじゃないですかィ｣
｢ノックくらいしろ｣
｢なんでィ、お嬢さん仕事させられてたんですかィ。
さすが鬼の副長、容赦ねェや｣
｢ふふ、違うの、することが無かったから。
私が無理やりさせてもらったの。
･･･でも、もう帰るから、中途半端になっちゃった｣
｢なっ･･･｣
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作者名：あい | 作成日時：2021年1月19日 22時
