20.真っ青 ページ21
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その日、その後は何事も無かった。
礼を言われて、謝礼を貰う。
その人の瞳はどこか悲しそうだった。
それから、俺たちが見えなくなるまで背中を見送った。
そんな日から、早くも数日経っていた。
「やっぱり惚れられてんじゃねェですかィ」
「あぁ?」
「あのお嬢さんに」
「あほか、仕事しろ仕事」
屯所で刀を磨いていたところ、総悟がそう言い出す。
何を言ってるんだか。
黙る総悟を疑問に思って顔を上げる。
総悟は俺の部屋のドアを見ていて、何があるんだとそちらを向く。
「あ、どうも、えへへ」
目元を真っ青にしたAが、扉からこちらを覗いていた。
そばには近藤さんがいて
近藤さんが案内したんだと納得。
「・・・どうした、それ」
「遊びに来ました」
ふふふ、と笑ったそいつの答えは俺の質問とは噛み合ってなかった。
が、それはきっと、親にやられたものだろう。
事情を聴けば
ごたごたかくかくしかじかで、道に迷っていたら近藤さんに会ったらしい。
「さすがにあのまま迷わせておく訳にも行かず
家に返す訳にも行かねぇから連れてきちまった」
「おいおい・・・。こんな男所帯に女連れ込むなよ」
「だからトシのとこに連れてきたんじゃねぇか、お前なら安心だ」
ほれ、Aちゃん入りな、なんて勝手にあげる。
いつからAちゃんなんて呼ぶようになったんだ。
はぁ、とため息がこぼれる。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時