19.その人 ページ20
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「真選組とお見受けする」
そう言った侍を睨みつけるが昼見もせずに睨み返してきやがる。
そのあと、そいつの放った言葉に、俺は少し驚嘆した。
「つまり、そこにいるのはA、であっているな。
そいつをこちらへ渡して頂こう。なに、悪いことはしない。
さもなくば殺す」
「威勢のいい虫でィ。お嬢さんは渡せやせんぜィ。
俺たちゃ護衛中だバカヤロー」
「っつーことだ。ここはそっちが引いてくれりゃ
俺達もお前らを生かしてやってもいいが、この取引には応じられねぇようだな」
かちゃり、と剣を握る音。
相手の狙いはA。
俺たちを落とそうと考えたものじゃねぇってことか。
さすが、日本中で名を馳せているだけある。
護衛をつける理由も、はっきりしたな。
身代金か、髪か、
Aを手にすれば金になることくらい分かってんだ。
斬り合いが始まる。
刀と刀がぶつかる音なんて聞きなれたもんだ。
だが、あの人は違う。
刀なんて知らねぇ、縁のねぇ人だ。
できるだけ敵が近づかねぇように。
できるだけ怖がらせねぇように。
こんなに相手を考えて敵と戦ってんのはいつぶりだ。
いや、無いかもしれねぇ。
敵の数はそう多くなかった。
峰打ちで済んだやつ、死んじまったやつ。
どちらも処理班に連絡をとって任せる。
「大丈夫か」
すだれ越しにそう聞くと、はい、と返ってくる。
びっくりしましたね、と笑うその人。
なんで笑ってんだ、っんとに。
「・・・お怪我はありませんか?」
「あぁ、返り血もねぇよ」
それは良かったです、その声が思ったより明るくて、安心した。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時