Juri-7 ページ8
【Juri Side】
もう何度来たか分からない彼女の家。
アパートの階段を駆け上り、少し呼吸を整えながら彼女の部屋の前へ。
インターホンをならせば、目の前で待ってたのかなっていうくらいあっという間に扉が開いて。
危ないからちゃんと相手くらいは確認してほしい。
なんて言う資格、俺にはないかもしれないけど。
涙の跡がまだ残る君は、｢A。｣と呼んだ俺を見るなり、
[樹だあぁぁぁ]
と、泣き出してしまった。
｢おい、泣くなって｣
これだけで泣いちゃうのか。...相当、寂しい思いをしたんだろうな。
そう思うと、今目の前で涙を流しているのすら愛おしくて、この人を泣かせているのにそれを知らないアイツが憎くて、この人をここまで必死にさせてるアイツが少しだけ羨ましくて。
そして、アイツに羨ましいなんていう感情を抱いた自分が許せなかった。
[え、ちょ、樹...？]
Aの声で、ふと我に返った。
Aのことを抱きしめていたのは無意識。
やべ、
｢ごめん｣
怖かったかな、嫌だったかな、そんなことを考えてしまう。
[中...上がって？]
｢...おじゃまします｣
ゆっくりと歩き出したAの後ろについて中まで入る。
...相変わらずきれいな部屋。大学の頃から変わってないところ。
[...]
｢...なんかあった？俺でよければ話、いくらでも聞くよ？｣
[...]
...そりゃ、話したくないよな。
｢今はまだ話したくなければ、話したくなるまで俺は待ってるし、話したくならなければ話さなくていいからさ｣
[話したくない、わけじゃ、ないの。だから、あと、もうちょっと。もうちょっとだけ、待って]
｢うん、待ってるよ｣
しばらくして君の頬を濡らした涙が乾いてきた頃、
[樹、あのね...]
と言って、ぽつりぽつりと、でもしっかりと話し始めた。
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作者名：夕霧に向日葵 | 作成日時：2021年9月25日 15時
