よんわ ページ5
安 「で？」
理由を言うように促された私は、心の中で思ってることや頭の中にある言葉を必死にまとめながら言葉を紡ぐ。
「中村さんとご一緒できる機会ってこれから先無いかもしれないし、もしかしたらこの作品だってお会いできないかもしれないので、今日アフレコできないのが残念だなぁ…と思ったんです」
言葉を紡いでいるうちにちょっとずつ恥ずかしくなって、俯き加減で打ち明けると、安元さんはプルプルと震えだした。…何かまずいことでも言ったのだろうか。さすがに気持ち悪かった？頭の中でぐるぐる考え込んでいると、安元さんがにっこり笑って、
安 「そんなの気にしなくていいのよ、まだまだ若いんだから…。にしてもいとっちゃん可愛いな、おじさん抱きしめたくなっちゃう」
私の不安をなくすようなことを言ってくださった。…この人はなんて優しいのだろうか。
中 「お取り込み中失礼しますよ。伊藤さん、安元さん、この日開いてますか？」
「あ、えっと…その日は開いてます！」
安 「ん、開いてるよ」
中 「じゃあ、今日の収録は無しで。この日に変更だそうです。」
中村さんからの連絡に、なぜスタッフさんが言わないんだろうと少し疑問に思った。
それが表情に出たのだろう、中村さんは苦笑いをして、「彼ら今手ェ離せないからね」と言った。私はそれを聞いて顔から火が出るほど恥ずかしくなったし、スタッフさん側のことまで気を遣える中村さんのようになりたいと、そう思った。
安 「他の人たちは？」
中 「他の人たちにももう連絡したってさ。俺らが来るの早すぎたみたいで」
安 「そうか、良かったねいとっちゃん」
安元さんは笑いながら少しぶきっちょなウインクをした。私はできてないですよ！なんて笑顔で突っ込んだけど、先輩の優しさに少しホロリときたのは内緒である。
中 「あーっとそろそろ俺次の現場の方に向かいますね。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
安 「お疲れ〜」
中村さんは扉を開いて、何故か立ち止まった。何事かと安元さんと顔を見合わせていると、中村さんは振り返り
中 「俺も、今日は残念だなって思いましたよ」
なんて捨て台詞を言って、何事もなかったかのように現場を出て行った。
なに、なにあれ
他の声優さんたちから聞いた中村さんの雰囲気とは全然違って…なんというか、ふんわり甘い雰囲気を感じた。
「これがギャップ萌え…！？」
人間見た目で判断しちゃダメだわ…
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