じゅうわ ページ11
「慰めるとか、そんなんじゃないんです。」
気がつけば、俺はそう言ってしまっていた。
どうしてそんなことを言ったのか、冷静になってみればわからない。だけど、ありがとうと礼を言う彼女の横顔に、胸がぎゅっとして、この思いに気づかないふりをしているあの人が、少し憎い。
そう、やっぱりあの人は彼女の想いに気づいているんだ。
伊 「ん…？」
「そんなんじゃなくて、なんというか…ですね。」
モゴモゴと口を動かす俺に、伊藤さんは怪訝そうな顔を向ける。
ここまで来たら、もう、あとには引けねーだろ。
「つまり、妹だと思って可愛がっていた子が自分を追いかけて声優になって、ましてや、自分のことが好きって嬉しくないわけないじゃないですか。きっと…」
俺は、ここで一度大きく息を吸った。
「きっと、福山さんは、大切だから穢したくなかったんだと思いますよ」
安 「ほー…中村、なんでそう思ったの？」
笑顔で発した言葉で、一瞬その部屋の空気がシーン、とした。その空気を吹き飛ばすかのような安元さんの質問に、ありがたく思うと同時に、こんちくしょう、とも思った。なんでこんな恥ずかしいこと言ってんだろ…。
「福山さん、自分に厳しいんです。だから、きっとあなたに手が出せない…。多分、理由は年齢差…でしょうか。」
きっと、俺でも躊躇する。
11個という年の差、親戚、幼馴染…色んな理由が彼を戸惑わせる足枷なんだろう。あの人は、頭がいいから。
伊 「そんなの、そんなのって…」
沢 「A？」
伊藤さんは、ホロリと一粒の大きな涙を、大きなその瞳から落とした。
やってしまった、と思ったのは、伊藤さんが個室から走り出て、それを沢城が追いかけたときだった。
立 「…若いね、中村くんも」
安 「ほんとほんと。若いわ」
間 「いいねぇ若いって」
口々に若いという先輩方をギロリと睨んで、普段はあんまり飲まない酒を煽る。酔わないとやってられない…。
立 「お前さ、」
安 「しんのす。」
何かを言おうとした立花さんを、安元さんが名前を呼んで止めた。何を、言おうとしたんだろうか。まさか、俺に追いかけろとか…は、ねーな。
自嘲のような笑みを浮かべる。
安 「さーて、いとっちゃんも沢城も帰って花が無くなったことだし、お開きにすっか〜」
立 「じゃ、恒例のじゃんけん。勝った人が払うこと」
じゃんけんは、勝ったけど、負けた。
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